はじめに:その申請、ちょっと待った!「資本金」と「人数」だけを見ていませんか?
「うちは従業員20名の小さな会社だから、当然『中小企業』向けの補助金に応募できるはずだ」
「親会社はあるけれど、別法人として独立採算でやっているから関係ないだろう」
もし、あなたが今、このようにお考えであれば、少しだけ手を止めてこの記事を読んでください。
実は、補助金・助成金の世界には、見た目は中小企業なのに、制度上は「大企業」として扱われてしまうという、恐ろしい落とし穴が存在します。
それが、今回解説する「みなし大企業」というルールです。
補助金の申請準備には、膨大な時間と労力、そして場合によっては着手金などのコストがかかります。しかし、この「みなし大企業」の要件に引っかかってしまうと、どれだけ素晴らしい事業計画を書いても、どれだけ革新的なアイデアがあっても、審査の土俵に上がる前に「門前払い(不採択)」されてしまいます。
「まさか自社が対象外だなんて知らなかった……」
申請直前、あるいは申請後にそう嘆く経営者様を、私はこれまで数多く見てきました。
この記事では、補助金申請のプロフェッショナルとして、一見複雑でわかりにくい「みなし大企業」の定義を、専門用語を極力使わずに噛み砕いて解説します。
御社が補助金を受け取れる権利があるのか、それとも別の戦略を立てるべきなのか。この記事を読めば、その答えが明確になります。
1. そもそも「みなし大企業」とは何か?
まずは基本の「き」から押さえましょう。
言葉の響きからなんとなく想像できるかもしれませんが、正確に理解している人は意外と少ないのが実情です。
1-1. 体は「子供」、親は「大人」の状態
通常、日本の法律(中小企業基本法)では、「資本金」や「従業員数」によって「中小企業」か「大企業」かが決まります。
例えば、製造業であれば「資本金3億円以下」または「従業員300人以下」であれば、中小企業に分類されます。この基準を満たしていれば、本来は中小企業向けの補助金(ものづくり補助金やIT導入補助金など)に申請できるはずです。
しかし、「みなし大企業」とは、この数字上の基準を満たしていても、「実質的には大企業の支配下にある」と判断される企業のことです。
わかりやすく例えるなら、「お小遣いは少ない(資本金は小さい)けれど、大富豪の親(大企業)がバックについている子供」のような状態です。
補助金は基本的に「自力での資金調達が難しい中小企業を助けるための税金」ですから、「親がお金持ちなら、親に支援してもらってください」というのが、国の言い分なのです。
1-2. なぜこのルールが存在するのか?(公平性の観点)
少し厳しいルールに感じるかもしれませんが、これには理由があります。
もしこのルールがなければ、大企業が小さな子会社をたくさん作り、そのすべてで補助金を申請して税金を受け取ることが可能になってしまいます。これでは、本当に支援が必要な、独立系の町工場や商店に予算が回らなくなってしまいます。
「みなし大企業」の規定は、限られた補助金予算を、本当に必要とする中小企業に届けるための「公平性のフィルター」なのです。
2. あなたの会社は大丈夫?「みなし大企業」になる4つのパターン
では、具体的にどのような条件だと「みなし大企業」と判定されるのでしょうか?
補助金の種類によって細かな違いはありますが、主要な国の補助金(経済産業省・中小企業庁管轄)で採用されている共通ルールを見ていきましょう。
以下のいずれか1つでも当てはまれば、アウト(対象外)です。
パターン①:発行済株式の総数等の「2分の1以上」が同一の大企業に所有されている
これが最も一般的なケースです。
いわゆる「大企業の子会社」です。
- チェックポイント: 親会社(大企業)が、御社の株を50%以上(正確には2分の1以上)持っていませんか?
パターン②:発行済株式の総数等の「3分の2以上」が複数の大企業に所有されている
1社単独ではなくても、複数の大企業が株主になっているケースです。
- 例: 大企業A社が40%、大企業B社が30%の株を持っている。→ 合計70%となり、3分の2(約66.6%)を超えるため、「みなし大企業」となります。
- チェックポイント: 株主名簿を見て、大企業の持株比率を足し算してみてください。
パターン③:役員の「2分の1以上」を大企業の役員・職員が兼務している
資本関係(株の持ち合い)だけでなく、「人的な支配」もチェックされます。
- 例: 御社の取締役が4人いるうち、2人以上が親会社(大企業)からの出向者や、親会社の役員を兼任している場合。
- 注意点: ここで言う「役員」には、親会社の「社員(職員)」も含まれることが多いです。つまり、親会社の部長が、子会社の取締役を兼ねている場合などもカウントされます。
パターン④:代表取締役が、大企業の役員・職員を兼務している
たとえ他の役員がプロパー(生え抜き)社員だったとしても、会社のトップである「代表権を持つ役員」が、大企業の役員や社員を兼任している場合は、実質的な支配権があるとみなされます。
3. ここが最大の難関!「親会社が大企業かどうか」の判断基準
ここで多くの方が悩むのが、「じゃあ、うちの親会社は『大企業』なのか?」という点です。
「名前を聞いたことがない会社だから中小企業だろう」という思い込みは危険です。
補助金における「大企業」の定義は、「中小企業基本法における中小企業の定義に当てはまらない会社」となります。つまり、以下の基準を超えている会社が「大企業」です。
業種別「中小企業」の定義(これを超えると大企業)
| 業種 | 資本金基準 | 従業員数基準 |
| 製造業・建設業・運輸業など | 3億円以下 | 300人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
| 小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
※ポイントは「または(OR)」ではなく、「かつ(AND)」で判断する場合が多い点です。
ただし、親会社が大企業かどうかの判定では、「資本金が基準超」または「従業員数が基準超」のどちらか一方でも満たせば大企業とみなされるケースが一般的です(補助金の公募要領によります)。
要注意!「ベンチャーキャピタル(VC)」が出資している場合
スタートアップ企業などで、ベンチャーキャピタルから出資を受けている場合、「VCは大企業扱いになるのか?」という疑問が生じます。
一般的に、「中小企業投資育成株式会社」や「投資事業有限責任組合(ファンド)」からの出資は、みなし大企業の判定における「大企業」にはカウントしない、という特例措置が設けられている補助金が多いです。
しかし、大企業のCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)など、特定の事業会社が直接出資している場合は注意が必要です。ここも必ず公募要領を確認すべきポイントです。
4. 影響を受ける主な補助金・助成金リスト
「みなし大企業」と判定されると、具体的にどの補助金が使えなくなるのでしょうか?
人気のある主要な制度への影響を整理しました。
4-1. ほぼ間違いなく「対象外」になるもの(経済産業省系)
設備投資や販路開拓を支援する、以下のメジャーな補助金は、みなし大企業を厳格に排除しています。
- ものづくり補助金
- IT導入補助金
- 小規模事業者持続化補助金
- 事業承継・引継ぎ補助金
これらは、「中小企業・小規模事業者」を対象としているため、みなし大企業は申請資格がありません。
4-2. チャンスがあるかもしれないもの
一方で、制度の目的によっては申請可能なケースもあります。
- 事業再構築補助金(一部枠)基本的には中小企業向けですが、「中堅企業」という枠組みであれば申請可能な場合があります。ただし、補助率や補助上限額が中小企業枠とは異なる(少し不利になる)ことが多いです。
- 省エネ補助金工場などの省エネ設備への投資を支援する補助金は、大企業やみなし大企業でも申請可能な枠が設けられていることがあります(ただし、補助率は下がります)。
4-3. 雇用関係の助成金(厚生労働省系)はどうなる?
ここがややこしいポイントです。
「キャリアアップ助成金」や「雇用調整助成金」などの厚生労働省管轄の助成金は、経済産業省の補助金とは少しルールが異なります。
これらは「みなし大企業」という概念よりも、「自社の資本金と従業員数」で判定されることが一般的です。
ただし、「大企業扱い」になると、助成金の受給額(助成率)が下がることがあります。
(例:中小企業なら3/4助成だが、大企業だと1/2になる、など)
※厚労省の助成金でも、「実質的な支配関係」を見る規定が含まれる場合があるため、社労士への確認が必須です。
5. 申請前に必ずやるべき「自己診断アクション」
ここまで読んで、「うちは微妙かもしれない……」と不安になった方へ。
推測で諦める必要はありません。以下のステップで確実に確認しましょう。
ステップ①:株主名簿(法人税申告書の別表二)を確認する
直近の決算書に含まれる「別表二(同族会社等の判定に関する明細書)」を見れば、誰が何株持っているかが一目瞭然です。ここで50%以上持っている株主がいるか確認します。
ステップ②:大株主の「会社概要」を調べる
大株主が法人の場合、その会社のWebサイトや帝国データバンクなどの情報で、「資本金」と「従業員数」を確認します。
ステップ③:公募要領の「定義」ページを熟読する
応募したい補助金の最新の公募要領をダウンロードし、「補助対象者」の項目にある「みなし大企業」の定義を一言一句確認します。
「発行済株式総数の〜」といった文言が、今回の記事の内容と合致しているか照らし合わせてください。
ステップ④:事務局に匿名で問い合わせる
どうしても判断がつかない場合は、補助金事務局のコールセンターに問い合わせるのが確実です。
「親会社が〇〇業で資本金〇〇円、出資比率〇〇%なのですが、対象になりますか?」と聞けば、明確な回答が得られます。
6. 「みなし大企業」だった場合の対処法と生存戦略
もし確認した結果、残念ながら「みなし大企業」に該当してしまった場合、補助金活用は諦めるしかないのでしょうか?
結論から言えば、「中小企業向けの王道補助金は諦めざるを得ないが、別の道はある」です。
戦略A:「中堅企業」枠を狙う
近年、中小企業と大企業の間に位置する「中堅企業」を支援しようという動きが国の中で強まっています。
「事業再構築補助金」や、地方自治体が独自に行っている補助金の中には、みなし大企業や中堅企業を対象にした枠が存在する場合があります。視野を広げてリサーチしてみましょう。
戦略B:税制優遇(節税)を活用する
補助金(現金給付)はもらえなくても、「税金を安くする制度(税制措置)」は使える可能性があります。
例えば、「中小企業経営強化税制」などは、みなし大企業だと使えないケースが多いですが、「地域未来投資促進税制」や「DX投資促進税制」など、規模に関わらず要件を満たせば使える制度もあります。
キャッシュアウトを減らすという意味では、補助金と同じくらいの効果が期待できます。
戦略C:親会社と連携して「サプライチェーン系」の補助金を狙う
最近では、大企業と中小企業が協力して取り組むプロジェクトに対する支援も増えています。親会社のリソースを活用しつつ、グループ全体で利益を上げるための投資戦略に切り替えるのも手です。
7. まとめ:ルールを知ることは、経営を守ること
今回は、補助金申請における見えない壁「みなし大企業」について解説しました。
要点を振り返りましょう。
- 自社が小さくても、親会社が大きければ「大企業扱い」になることがある。
- 基準は「出資比率(1/2以上など)」と「役員兼務」。
- 親会社が「資本金3億円超」または「従業員300人超」なら要注意。
- 「ものづくり補助金」などは原則対象外だが、全ての支援が閉ざされるわけではない。
補助金申請は、情報の非対称性が激しい世界です。
「知らなかった」というだけで、数ヶ月の準備期間と、数百万円〜数千万円の受給機会を失うことになりかねません。
しかし、逆に言えば、「正しいルールを事前に知っておけば、無駄な戦いを避け、勝てる場所で戦うことができる」ということです。
もし、御社の資本関係が複雑で、「自分たちだけで判断するのは怖い」と感じられた場合は、申請前に必ず認定支援機関(税理士、中小企業診断士、民間コンサルタントなど)にご相談ください。
プロの目は、公募要領の細かい注釈まで読み解き、御社が最も有利に活用できる制度を提案してくれるはずです。
補助金はあくまで手段です。
制度の枠組みに一喜一憂するだけでなく、御社の事業成長にとって最適な資金調達方法は何か、広い視点で検討してみてください。この記事が、その第一歩となれば幸いです。
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