~金額の安さだけで選ぶと失敗する。「リンゴ」と「ミカン」を比較しないための発注ガイド~
「ホームページを作りたいと思い、3社に見積もりを依頼してみた」
「A社は30万円、B社は100万円、C社は250万円…。同じ要望を伝えたはずなのに、なぜ桁が違うのか?」
「安く済ませたいが、安かろう悪かろうは怖い。かといって高いところが良いとも限らない…」
経営者の皆様。お手元の見積書を見比べて、このようなため息をついていませんか?
ホームページ制作は「定価」のないサービスです。家電製品のように「型番」があるわけではないため、制作会社によって金額の基準はバラバラです。
そのため、多くの経営者が「相見積もり(複数の会社から見積もりを取ること)」を行います。
これは非常に正しい防衛策です。しかし、ここに大きな落とし穴があります。
「とりあえず、概算でいいから見積もりをください」
もし、あなたがこの言葉を使って依頼をしているなら、その相見積もりは失敗する確率が90%以上です。
なぜなら、曖昧な依頼に対して出てくる見積もりは、制作会社が勝手に想像した「松・竹・梅」のプランであり、前提条件が全く異なる「比較不可能なもの」だからです。
リンゴの値段とミカンの値段を比べて「ミカンの方が安いから買おう!」と言っているようなもので、これでは後々「欲しかったのはリンゴだったのに!」と後悔することになります。
この記事では、Web制作の現場とSEOの最前線を知り尽くした私が、「正しい相見積もりの取り方」と「見積書に隠された罠の見抜き方」を徹底解説します。
この記事を読めば、制作会社が「この社長、手強いな(いい加減な仕事はできないな)」と背筋を伸ばすような、賢い発注ができるようになります。
無駄なコストを削減し、最高のパートナーを見つけるために。ぜひ最後までお付き合いください。
1. なぜ「とりあえず見積もり」が危険なのか?
まずは、曖昧な依頼が引き起こす「悲劇のメカニズム」を理解しましょう。
1-1. 制作会社によって「ゴール」の解釈が違う
あなたが「ホームページを作りたい」と言ったとき、制作会社は頭の中で何を考えているでしょうか?
- 格安制作会社A社: 「とにかく安く、名刺代わりの5ページがあればいいんだな」→ 見積もり30万円
- マーケティング会社B社: 「集客したいはずだから、ブログ機能やSEO対策も必要だな」→ 見積もり100万円
- ブランディング会社C社: 「企業の信頼性を上げたいはずだから、プロカメラマンの撮影や取材も入れよう」→ 見積もり250万円
ご覧の通り、全員が「お客様のため」を思って見積もっていますが、目指しているゴール(完成形)がバラバラです。
これを横並びにして「A社が一番安い!」と判断するのは、軽自動車とトラックと高級セダンを値段だけで比べているのと同じです。
用途に合わなければ、安くても「無駄金」になります。
1-2. 「後出しじゃんけん」で追加請求される
曖昧な見積もりには、必ず「※別途費用」という抜け道が用意されています。
契約後に「スマホ対応は別料金です」「文章はお客様が書いてください」と言われ、断れずに支払っていくうちに、結局B社やC社よりも高くなってしまった…。
これは、最初の「依頼内容」を固めていなかったことが原因です。
2. 成功の鍵は「RFP(提案依頼書)」にあり
では、どうすれば条件を揃えて比較できるのでしょうか。
答えは簡単です。「RFP(Request For Proposal)」を用意することです。
「難しそうな横文字が出てきた…」と身構えないでください。
要するに、「私たちの要望まとめシート」のことです。A4用紙1枚で構いません。これがあるだけで、制作会社からの提案の質は劇的に向上します。
RFPに書くべき「5つの必須項目」
- プロジェクトの目的(Why):
- 「名刺代わりにしたい」のか「集客して売上を上げたい」のか。ここがブレると全てがブレます。
- ターゲット(Who):
- 誰に見せたいサイトか。「地域の主婦」なのか「大手企業の決裁者」なのか。
- 必要なページ・機能(What):
- 会社概要、サービス紹介、採用情報、ブログ機能、お問い合わせフォームなど。
- 用意できる素材(How):
- 写真や原稿は自社で用意するのか、プロに頼みたいのか。
- 予算と納期(When/How much):
- 「100万円以内」「3月末までに公開」など。
このシートを全社に配り、「この条件で見積もりをください」と伝える。
これで初めて、リンゴとリンゴを比較する土俵が整います。
3. 「予算」は隠すべき? 先に言うべき?
ここが経営者の皆様が一番悩むポイントです。
「予算を先に言うと、足元を見られてギリギリまで高い金額を出されるのではないか?」
お気持ちは痛いほど分かります。しかし、プロとしての結論は「予算は正直に伝えた方が、結果的にコスパが良くなる」です。
「予算」は「家づくり」と同じ
不動産屋に行って「予算は言えませんが、いい家を紹介してください」と言っても、相手は困りますよね。
ワンルームを紹介すればいいのか、豪邸を紹介すればいいのか分からないからです。
Web制作も同じです。
「予算は100万円前後です」と伝えれば、制作会社は「その100万円の中で、最大限の効果を出すためのプラン」を必死に考えます。
「写真をプロに頼む代わりに、ページ数を少し減らしましょう」といった、現実的で建設的な提案が出てくるのです。
もし予算を隠して、「やりたいこと」だけを伝えると、制作会社はリスクを避けるために「全部盛り」の300万円の見積もりを出してきます。これでは時間の無駄です。
「上限は〇〇万円」と伝えることが、良い提案を引き出す呼び水になります。
4. 見積書に潜む「ブラックボックス」を解読せよ
各社から見積もりが集まりました。いざ比較検討です。
ここで、数字のトリックに騙されないためのチェックポイントを伝授します。
① 恐怖の「一式」見積もり
「Webサイト制作一式:100万円」
これしか書いていない見積書は、即座に却下するか、詳細を求めてください。
「一式」は、制作会社にとって都合の良い魔法の言葉です。何が含まれていて、何が含まれていないのかが不明瞭なため、後で「それは含まれていません」と言われるリスクが最大級です。
- デザイン費:〇〇円
- コーディング費(スマホ対応含む):〇〇円
- ディレクション費:〇〇円
最低でもこれくらいの内訳を出せる会社を選びましょう。
② 「ディレクション費」とは何か?
見積書によくある「ディレクション費(管理費)」。全体の10%〜30%程度で計上されます。
「管理するだけでお金を取るのか?」と思われるかもしれませんが、ここは「削ってはいけない費用」です。
ディレクション費とは、御社のビジネスを理解し、競合を調査し、サイトの構成を考え、進行管理をするための「脳みその使用料」です。
ここが極端に安い(または0円)の会社は、「言われたことしかやらない(提案しない)」可能性が高いです。
逆に、ここがしっかり計上されている会社は、戦略的なパートナーになり得ます。
③ ランニングコスト(保守費)の縛り
制作費(イニシャル)が安くても、月額費用(ランニング)が高いケースがあります。
「制作費0円!月額3万円の5年契約」
これは総額180万円のローン契約と同じです。しかも途中解約できないケースが大半です。
「5年間でトータルいくら払うことになるのか?」を必ず電卓で計算してください。
5. 担当者の「質問力」で会社の実力を見抜く
見積書の金額以外にも、制作会社の実力を見抜く方法があります。
それは、ヒアリング時の「担当者からの質問内容」です。
ダメな担当者の質問
- 「どんなデザインが好きですか?」
- 「何ページくらい作りたいですか?」
- 「参考になるサイトはありますか?」
これらは、御社に「答え」を求めています。彼らは「作業代行者」です。
優秀な担当者の質問
- 「今回、なぜリニューアルしようと思ったのですか?(経営課題の特定)」
- 「御社のサービスの強みや、競合との違いは何ですか?(USPの発見)」
- 「サイト公開後、問い合わせを月に何件獲得したいですか?(目標設定)」
彼らは、御社のビジネスを成功させるための「コンサルタント」です。
Webサイトは作って終わりではありません。ビジネスの課題を解決するためのツールです。
「デザイン」の話よりも先に「ビジネス」の話をしてくれる担当者こそ、信頼に値します。
6. フリーランス vs 制作会社、どっちに見積もる?
相見積もりの相手を誰にするかも重要です。
コスト重視なら「フリーランス」
- メリット: とにかく安い。制作会社の見積もりの半額以下になることも。
- デメリット: 品質の当たり外れが大きい。病気などで連絡が途絶えるリスクがある。
- 向いている人: 名刺代わりのサイトでいい、予算がない、知人の紹介など信頼できる個人がいる。
安心と品質重視なら「制作会社」
- メリット: チームで動くため品質が安定している。倒産リスクが低く、長く付き合える。
- デメリット: 費用が高い。
- 向いている人: Webを集客の柱にしたい、失敗したくない、法人間取引を重視する。
おすすめは、「制作会社2社、実績のあるフリーランス1人」の計3社程度に声をかけることです。
選択肢の幅が広がり、自社に最適な相場感が見えてきます。
7. まとめ:見積書は「ラブレター」である
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
相見積もりは、単なる「価格競争」ではありません。
制作会社からの見積書や提案書は、「私たちは御社のビジネスをここまで理解し、こうやって成功させます」というラブレターです。
金額の安さだけに目を奪われないでください。
「一式」で片付けず、細部まで丁寧に記載されているか。
こちらの要望(RFP)に対して、プロとしての+αの提案があるか。
見積書の行間には、その会社の「誠実さ」と「熱量」が表れます。
- 曖昧な依頼をせず、RFP(要望書)を用意する。
- 予算は正直に伝え、その中でのベスト提案を求める。
- 金額だけでなく、担当者の「質問力」と「提案内容」で選ぶ。
この3つを守れば、相見積もりは必ず成功します。
「一番安い会社」ではなく、「一番信頼できるパートナー」を選んでください。
Webサイトは、完成してから数年間、御社の顔として24時間働き続ける大切な資産です。
この記事が、御社にとって最高のパートナーと出会うための羅針盤となることを、心より願っております。
【編集後記】
余談ですが、「他社さんの見積もりが30万円だったから、お宅も30万円にしてよ」という値引き交渉は、あまりおすすめしません。
制作会社も人間です。「価格」だけで叩かれると、モチベーションが下がりますし、見えない部分(品質)を削らざるを得なくなります。
「あなたの提案が一番良かった。予算が少しオーバーしているんだけど、どこか調整して契約できないか?」
と相談されれば、私たちは意気に感じて、何とか知恵を絞ろうとします。
良い仕事は、良い関係性から生まれます。ぜひ、素敵なパートナーシップを築いてください!

