はじめに:「ウチには特別な技術なんてないよ…」その思い込みが採択を遠ざけます
「事業計画書の『独自性・差別化』の欄、何を書けばいいのか全く思いつかない…」
「うちは普通の飲食店だし、世界初の技術なんて持っていない…」
補助金・助成金の申請準備を進める中で、この「独自性」という言葉の壁にぶつかり、頭を抱えている経営者様(あなた)は非常に多いです。
申請サポートの現場でも、「強みは何ですか?」と聞くと、多くの社長様が謙遜して「特にないですよ」と仰います。
しかし、プロとして断言します。
「独自性のない会社」など、この世に存在しません。
もし本当に何の特徴も強みもなければ、厳しい競争社会の中で今日まで事業を継続できているはずがないからです。お客様がお金を払ってくれているという事実こそが、そこに「他社にはない価値」があることの何よりの証明です。
では、なぜ書けないのでしょうか?
それは、強みがないのではなく、「補助金の審査員に伝わる言葉(翻訳)に変換できていないだけ」なのです。
多くの経営者様は、「独自性」=「世界初のイノベーション」や「特許技術」のような大それたものだと思い込んでいます。
ですが、補助金審査で求められる独自性は、もっと身近で、泥臭いもので構いません。
「近隣にはない」「このターゲット層には特化している」といった、「組み合わせの妙」こそが、最強の武器になるのです。
この記事では、数千件の申請書を見てきたプロの視点から、あなたの会社の中に眠る「当たり前の価値」を掘り起こし、審査員を唸らせる「独自性」へと磨き上げる方法を徹底解説します。
専門用語は極力使わず、明日から使えるフレームワークと具体的な例文を用意しました。
この記事を読み終える頃には、「ウチって意外とすごい会社かもしれない!」と自信を持ってペンを走らせることができるようになっているはずです。
1. そもそも補助金審査における「独自性」とは何か?
書き方を学ぶ前に、敵(審査員)が求めている「独自性」の定義を正しく理解しましょう。ここがズレていると、どれだけ熱く語っても不採択になります。
1-1. 「オンリーワン」ではなく「ベターワン」でいい
審査員は、スティーブ・ジョブズのようなiPhoneを発明するような革新性を求めているわけではありません(※一部の研究開発系補助金を除く)。
中小企業向けの補助金(ものづくり補助金、事業再構築補助金、小規模事業者持続化補助金など)において評価される独自性とは、以下のレベル感です。
- × 誤解: 「世界中どこを探しても自社しかやっていない技術」
- 〇 正解: 「商圏エリア内、または特定の顧客層において、競合他社よりも明確に優れている点がある」
つまり、「近所のライバル店Aよりも、提供スピードが早い」「大手チェーン店Bにはできない、細かなオーダーメイド対応ができる」といった「相対的な優位性」があれば、それは立派な独自性として認められます。
1-2. 審査員が知りたいのは「なぜ、御社が勝てるのか?」
審査員は投資家のような視点で計画書を読みます。
「税金を投入して設備を買ってあげたとして、この会社は本当に競争に勝てるのか?」
「大手が参入してきたら負けるのではないか?」
という意地悪な視点を持っています。
その不安を払拭するために、「他社が簡単にマネできない理由(独自性)」を説明してほしいのです。
「ただ新しい機械を買うだけ」では、お金さえあれば誰でもマネできます。そこに「御社ならではのノウハウ」や「地の利」が掛け合わされているか。そこが見られています。
2. 「独自性がない」は思い込み!眠れる強みを見つける3つの視点
「理屈はわかったけど、やっぱり思いつかない」
そんな時は、自社のビジネスを以下の3つの視点で分解してみてください。商品そのものに特徴がなくても、別の場所に強みが隠れていることがよくあります。
視点①:Product(商品・技術)の独自性
これは一番分かりやすい、「モノ」の強みです。
- 素材: 「地元〇〇産の希少な木材を使っている」
- 品質: 「誤差0.01ミリの加工ができる」
- メニュー: 「アレルギー対応のスイーツがある」
「ウチの商品は普通だよ」という場合でも、「仕入れルート」や「検品体制」に独自性があるかもしれません。
視点②:Process(提供方法・サービス)の独自性
商品は他社と同じでも、「売り方」や「届け方」が違うパターンです。中小企業が最も差別化しやすいのがここです。
- スピード: 「他社が1週間かかるところを、即日対応できる」
- 時間: 「深夜・早朝に対応している」「24時間予約可能」
- 接客: 「マニュアル対応ではなく、専任担当者がつく」
- アフターフォロー: 「売って終わりではなく、3ヶ月ごとの無料点検がある」
視点③:Target / Place(顧客・場所)の独自性
「誰に」売るか、「どこで」売るかで差別化するパターンです。
- ターゲット特化: 「美容室」ではなく「50代以上の髪質改善専門美容室」
- エリア特化: 「過疎地域で唯一の宅配サービス」
- ニッチ市場: 「左利き専用の文房具店」
【ワーク:あなたの強み発掘】
常連客の顔を一人思い浮かべてください。
「なぜ、あのお客様は、もっと安くて便利な大手チェーンに行かず、わざわざウチに来てくれるのだろう?」
その答え(「近いから」「社長と話したいから」「融通が利くから」)こそが、あなたの会社の真の独自性です。
3. 誰でも書ける!独自性を作る魔法のフレームワーク「掛け算」思考
素材が見つかったら、それを「採択される独自性」に加工しましょう。
最強のテクニックは「掛け算」です。
一つの要素だけでは弱くても、二つを掛け合わせると「オンリーワン」が生まれます。
公式:「ありふれた事業」×「自社の強み」=「独自性」
いくつか具体例を見てみましょう。
- 例1:普通のカフェ × 高齢者見守り
- ただのカフェならどこにでもありますが、「配達ついでに高齢者の安否確認を行う地域密着カフェ」なら、行政も注目する独自事業になります。
- 例2:建設業 × ドローン点検
- 普通の工務店ですが、「ドローンを使って屋根に登らず安全・安価に見積もりを作る」となれば、他社との明確な差別化になります。
- 例3:学習塾 × 不登校児支援
- 進学塾はレッドオーシャンですが、「不登校児のメンタルケアもできるカウンセラー常駐の塾」なら、特定の層に深く刺さる独自性になります。
「何か新しいことを始めなきゃ」と焦るのではなく、「今ある強み(経験、資格、立地、人脈)」に「世の中のニーズ(機会)」を掛け合わせることで、独自性は自然と浮かび上がってきます。これを経営学では「クロスSWOT分析」と呼びます。
4. 審査員に刺さる!「独自性」の具体的な書き方・表現テクニック
ネタが決まったら、いよいよ文章に落とし込みます。
ここで多くの人がやってしまう失敗が、「形容詞だけで語ってしまう」ことです。
テクニック①:「形容詞」禁止ゲーム
「美味しい料理」「親切な対応」「高い技術力」
これらは全て主観的な形容詞であり、審査員には何も伝わりません。
形容詞を使いたくなったら、「数字」か「固有名詞」に変換してください。
- × 悪い例: 「当社の強みは、経験豊富な職人による高い技術力です。」
- 〇 良い例: 「当社の強みは、業界歴30年の職人が3名在籍し、他社では断られる厚さ0.5mmの薄板溶接が可能な点です。」
- × 悪い例: 「こだわりの食材を使った美味しいランチ。」
- 〇 良い例: 「地元〇〇農家から毎朝直送される無農薬野菜のみを使用し、化学調味料不使用で提供するランチ。」
これだけで、説得力が100倍変わります。
テクニック②:「比較表(ポジショニングマップ)」を入れる
文章だけでなく、図解を入れると最強です。
「自社」「大手チェーン」「地域の競合A社」を横並びにした比較表を作りましょう。
| 項目 | 自社(本事業) | 大手チェーン | 地域競合A社 |
| 価格 | 普通 | ◎安い | 〇普通 |
| 納期 | ◎即日対応 | △1週間 | △3日 |
| 対応力 | ◎オーダーメイド可 | ×規格品のみ | △一部可 |
このように、**「価格では負けるが、納期と対応力では圧勝している」**ということが一目で分かる表を入れると、審査員は「なるほど、住み分けができているな」と納得します。
テクニック③:「エビデンス(証拠)」を添える
「独自性があります!」と自称するだけでなく、第三者の声を添えましょう。
- 顧客の声: 「お客様アンケートでは、9割が『対応の早さ』を評価してくれています」
- 実績: 「この独自技術により、特許を取得しました(または表彰されました)」
- メディア掲載: 「地元の新聞で『ユニークな取り組み』として紹介されました」
5. 【業種別】独自性アピールのBefore/After事例集
では、実践編です。
よくある「惜しい書き方」を、採択レベルにリライトしてみましょう。
ケースA:飲食店(ラーメン屋)の場合
【Before:よくある書き方】
当店の強みは、豚骨ベースの美味しいスープと、アットホームな接客です。地域の皆様に愛される店作りを目指します。
(プロの診断)
「美味しい」「アットホーム」は誰でも書けます。これでは埋もれてしまいます。
【After:採択レベル】
独自性:【地域初】管理栄養士が監修した「毎日食べても罪悪感のない」健康志向ラーメン
近隣のラーメン店は「安さ・ボリューム」を売りにする店が多い中、当店は独自の製法で脂質を50%カットしつつ濃厚さを維持するスープを開発しました(数値的根拠)。健康診断が気になる30代〜50代の男性客をターゲットとし、深夜でも安心して食べられる「健康×ラーメン」という新しいポジションを確立します。
ケースB:建設業(リフォーム)の場合
【Before:よくある書き方】
当社は丁寧な施工と、お客様第一の精神を大切にしています。今回の補助金で新しいソフトを入れて、見積もりを早く出せるようにします。
(プロの診断)
「丁寧」は当たり前です。なぜ見積もりを早く出す必要があるのか、差別化が見えません。
【After:採択レベル】
独自性:【来店不要】LINEとVRを活用した「スマホで完結するリフォーム提案」
競合他社は「訪問営業・対面打ち合わせ」が主流ですが、共働き世帯が多い当エリアでは「打ち合わせ時間が取れない」という課題がありました。そこで、LINEで写真を送るだけで概算見積もりを即日提示し、完成イメージをスマホ上のVRで確認できる仕組みを導入します。「会わずに進められる手軽さ」と「視覚的な分かりやすさ」で、忙しい現役世代の支持を獲得します。
6. ここで差がつく!「VRIO分析」で独自性を証明する(上級編)
さらに一歩進んで、審査員を「完落ち」させるための理論武装をしましょう。
経営学のフレームワーク「VRIO(ブリオ)分析」を少しだけ意識して書いてみます。
VRIOとは、以下の4つの問いかけです。
- Value(経済価値): お客様はお金を払ってくれるか?
- Rarity(希少性): 他のお店にはないか?
- Imitability(模倣困難性): 他社が簡単にマネできないか?
- Organization(組織): それを実行できる体制があるか?
特に重要なのが「I:模倣困難性(マネされにくさ)」です。
審査員は「それ、儲かると分かったら大手がすぐ真似するよね?」と突っ込んできます。
それに対して、こう切り返せる要素を書いてください。
- 「この技術は、熟練職人の暗黙知が必要なので、機械を入れただけではマネできません」
- 「当社には、創業以来築いてきた独自のエビの仕入れルートがあり、他社には参入障壁があります」
- 「地域の医療機関と連携協定を結んでおり、信頼関係は一朝一夕では作れません」
「お金で買えない強み」をアピールできれば、独自性の証明は完璧です。
7. ひとりよがりになっていない?提出前の最終チェックリスト
最後に、書き上げた計画書を客観的に見直すためのチェックリストを用意しました。
以下の質問に自信を持って「YES」と言えるか確認してください。
- [ ] 「形容詞(すごい・美味しい)」だけで強みを語っていませんか?
- (数字や事実に置き換えられていますか?)
- [ ] その独自性は、お客様にとって「嬉しいこと(メリット)」ですか?
- (自己満足のこだわりになっていませんか?)
- [ ] 競合他社(ライバル)の名前を具体的に意識していますか?
- (仮想敵との比較表はありますか?)
- [ ] 「なぜ、他社はそれをマネできないのか」を説明できますか?
- (ノウハウ、人脈、立地などの参入障壁はありますか?)
- [ ] 業界を知らない素人(家族など)が読んで、「なるほど、それはすごいね」と言ってくれますか?
まとめ:あなたの会社には、必ず「光る原石」がある
今回は、補助金申請における「事業の独自性」のアピール方法について解説しました。
要点を振り返りましょう。
- 「世界初」である必要はない。 競合との「違い」があればいい。
- 「ありふれた事業」×「自社の強み」の掛け算で独自性は作れる。
- 形容詞は禁止。 数字と固有名詞、比較表で証明する。
- **「マネされにくさ」**を語れると、採択率は劇的に上がる。
事業計画書を書くという作業は、単に補助金をもらうための事務手続きではありません。
自社の強みを見つめ直し、競合を分析し、「なぜお客様はウチを選んでくれるのか?」という経営の根幹を再確認する、素晴らしい機会でもあります。
もし今、「ウチには何もない」と落ち込んでいるとしても、絶対に諦めないでください。
何もない会社なんてありません。
泥臭い現場の工夫、長年のお客様との会話、社長であるあなたの想い。
その中に、必ずキラリと光る「独自性の原石」が埋まっています。
この記事を参考に、その原石を言葉という布で磨き上げ、審査員を驚かせるような輝く事業計画書を書き上げてください。
あなたの挑戦が、採択という形で報われることを心より応援しています。
【独自性の発掘・事業計画書の無料診断】
「自分の会社の強みがどうしても見つからない」「書いた内容が独自性として認められるか不安だ」
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