「新しい設備を導入したいが、自己資金は温存したい…」
「人を雇って事業を拡大したいが、コストが不安…」
「IT化を進めたいが、初期投資がネックだ…」
日々、事業の成長と資金繰りの間で奮闘されている個人事業主・中小企業の経営者様にとって、こうした悩みは尽きないかと思います。
そんな時、一度は耳にしたことがあるであろう「魔法の言葉」があります。
それが、「補助金(ほじょきん)」と「助成金(じょせいきん)」です。
どちらも「国や自治体から、原則”返済不要”のお金がもらえる」という、非常に魅力的な制度です。
しかし、その一方で、こんな「壁」を感じていませんか?
「補助金と助成金、名前が似ていて、どっちがどっちだか分からない」
「どうせ、申請が地獄のように面倒くさいんでしょ?」
「ウチみたいな個人事業主や、小さな会社は対象外なんじゃないの?」
もし、あなたがこの「分かりにくさ」のせいで、年間で数十万、数百万円にもなる**「もらえるはずだったお金」**を受け取るチャンスを逃しているとしたら、それはあまりにもったいないことです。
この記事は、補助金・助成金の知識が「ゼロ」のあなたへ向けた、「日本一やさしい入門ガイド」です。
この記事を最後まで読めば、あなたの会社が「今、どちらを狙うべきか」が明確になり、「申請のための具体的な第一歩」を踏み出せるようになります。
【結論】補助金と助成金は「別モノ」です!たった2つの違い
まず、9割の経営者様が混同している、最大の「誤解」から解き明かします。
「補助金」と「助成金」は、似ていますが「目的」と「もらいやすさ」が全く違います。
このイメージを、まずは頭に焼き付けてください。
- 補助金 = 審査で選ばれる「コンテスト(選抜)」
- 助成金 = ルールを守ればもらえる「ミッション(達成報酬)」
これだけです。
「コンテスト」なのか、「ミッション」なのか。
この違いが分かれば、もうあなたは迷いません。
では、それぞれの「正体」を詳しく見ていきましょう。
徹底解説①:【補助金】とは?(=攻めの”コンテスト”)
「補助金」は、一言でいえば「国の政策目標に協力し、新しい挑戦をする企業を、競争で選抜して応援する」お金です。
1. 補助金は「誰が」「何のために」くれる?
- 出どころ(主な管轄): 経済産業省や、各自治体
- 目的:国の「政策」を推進するためです。例えば、国が「日本全体のIT化(DX)を進めたい!」と考えた時、「ITツールを導入する企業には、費用の一部を補助しますよ!」と発表します。これが補助金です。
- キーワード:「モノ(設備)」や「カネ(投資)」が中心。IT化、DX推進、生産性向上、新商品開発、海外展開、販路開拓(例:ホームページ制作)など、「攻め」の投資に使われます。
2. 補助金の「最大の壁」= 審査と競争
補助金は「コンテスト」だとお伝えしました。これが最大のポイントです。
- 予算と枠(定員)がある:国の予算は無限ではありません。そのため、「今回の公募(募集)では、予算10億円、100社を採択します」といった枠が決められています。
- 必ず「審査」がある:申請の際には「こんな事業計画で、これだけ成長します!」という分厚い「事業計画書」の提出が必須です。審査員(国)は、集まった計画書を読み比べ、「A社よりB社の方が、国の目的に合っているし、将来性がありそうだ」と判断します。
- 必ず「不採択(不合格)」がある:「コンテスト」なので、どんなに素晴らしい計画でも、他の応募者との比較で負ければ「不採択(不合格)」となり、1円ももらえません。人気の補助金では、採択率が30%(7割が落ちる)ということもザラにあります。
3. 補助金が向いているのは、こんな会社
「新しい投資(攻め)をして、事業を大きくしたい!」
- 「新しい機械を導入して、生産性を上げたい」(ものづくり補助金 など)
- 「ITツールや会計ソフトを導入して、業務を効率化したい」(IT導入補助金 など)
- 「集客のために、ホームページやチラシを新しくしたい」(小規模事業者持続化補助金 など)
徹底解説②:【助成金】とは?(=守りの”ミッション”)
「助成金」は、一言でいえば「国が定めた”働きやすい職場づくり”のルールを守ってくれた企業に、ご褒美として支給する」お金です。
1. 助成金は「誰が」「何のために」くれる?
- 出どころ(主な管轄): 厚生労働省
- 目的:「雇用の安定」や「職場環境の改善」です。例えば、国が「非正規雇用(パート)と正社員の格差をなくしたい!」と考えた時、「パートさんを正社員に登用した企業には、ご褒美(助成金)を出しますよ!」と発表します。これが助成金です。
- キーワード:「ヒト(雇用)」が中心。正社員化、従業員研修(スキルアップ)、育児・介護休業の整備、シニアの雇用促進など、「守り」の環境整備に使われます。
2. 助成金の「最大の魅力」= 要件を満たせば、原則もらえる
助成金は「ミッション」だとお伝えしました。これが最大の魅力です。
- 予算と枠(定員)がない(ことが多い):補助金のような「競争」や「選抜」の概念がありません。
- 「審査」ではなく「確認」:提出するのは「事業計画書(夢を語るもの)」ではなく、「ルール通りに実行した”証拠書類”」です。役所(労働局など)は、「ルールブック通りに、全部できていますね」と「確認」するだけです。
- 「不採択」は、ほぼない:国が定めた「AとBとCを実行する」という要件(ミッション)を、決められた手順(順番)で完璧にクリアし、期限内に申請すれば、原則として100%受給できます。(※もし受給できないとしたら、それは「要件を1つ満たしていなかった」という、申請側のミスがほとんどです)
3. 助成金が向いているのは、こんな会社
「従業員の環境を整えて、会社を”強く”したい!」
- 「優秀なパートさんを、正社員にして長く働いてほしい」(キャリアアップ助成金 など)
- 「従業員に研修を受けさせて、スキルアップしてほしい」(人材開発支援助成金 など)
- 「育休制度を整えて、出産後も戻ってきやすい職場にしたい」(両立支援等助成金 など)
【早見表】一目でわかる!補助金 vs 助成金 5つの違い
ここまでの内容を、忙しい経営者様のために「早見表」にまとめました。
御社の「今の悩み」は、どちらに近いかチェックしてみてください。
| 比較ポイント | 補助金 (コンテスト) | 助成金 (ミッション) |
| 主な目的 | 事業の成長支援 (IT化, 設備投資, 販路開拓など) | 雇用の安定支援 (正社員化, 職場改善, 研修など) |
| 主な管轄 | 経済産業省、自治体 など | 厚生労働省 |
| 対象 | モノ・カネ(攻めの投資) | ヒト(守りの環境整備) |
| 難易度 | 【高い】 審査と競争があり、**不採択(不合格)**になる。 | 【やさしい】 要件を満たせば、原則受給できる。 |
| 申請時期 | 短期間(「〇次公募」など。スピード勝負) | 通年(いつでも申請しやすいものが多い) |
【超重要】9割が知らない!補助金・助成金「共通の落とし穴」
「なるほど、違いは分かった!」
「助成金なら簡単そうだし、すぐ申請しよう!」
…と、その前に。
この「共通のルール」を知らないまま進むと、「採択(受給)されたのに、会社の資金繰りが悪化する」という、最悪の事態を招きかねません。
それは、補助金も助成金も、原則「後払い(精算払い)」だという事実です。
「合格したら、すぐにお金が振り込まれる」
これは、大きな間違いです。
実際に、あなたの口座にお金が入るまでの「リアルな流れ」を見てみましょう。
補助金(IT補助金)の場合
- 【申請】「150万円の会計ソフトを導入したい」と申請。
- 【採択(合格)】「OK!100万円補助します」と決定通知。
- 【立て替え】 あなたが、ITベンダーに「150万円」を自己資金で全額支払う。
- 【報告】「確かに150万円払って導入しました」と領収書などを提出。
- 【入金】審査後、数ヶ月〜半年後に、ようやく「100万円」が振り込まれる。
助成金(キャリアアップ助成金)の場合
- 【計画】「Aさんを正社員にします」と計画届を提出。
- 【実行】Aさんを正社員として登用。
- 【立て替え】 正社員として6ヶ月間、給与を(当然)払い続ける。
- 【申請】「6ヶ月間、正しく給与を払いました」と証拠(賃金台帳など)を提出。
- 【入金】審査後、数ヶ月後に、ようやく「57万円」が振り込まれる。
分かりましたか?
どちらの制度を使うにせよ、
「一時的に、全額を自社で立て替えて支払う体力(キャッシュ)」
が、大前提として必須なのです。
「手元にお金が1円もないから欲しい」という状態では、これらの制度は活用できないのです。
あなたの会社はどっち?ケース別「狙うべき制度」早分かりガイド
「違いも、落とし穴も分かった。で、結局ウチはどっちなの?」
というあなたへ。
具体的なお悩み別に、どちらを狙うべきか、どの制度が有名かを解説します。
ケース1:「集客のために、ホームページやチラシを作りたい」
→ 狙うべきは【補助金】です。
これは「販路開拓」という「攻め」の投資にあたります。
- 代表的な補助金:小規模事業者持続化補助金(持続化補助金)
- 個人事業主や、従業員5名以下(業種により20名以下)の「小さな会社」専用の補助金です。
- 「ホームページ制作」「ネット広告費」「チラシ作成費」などが対象になります。
- 補助額は50万円〜200万円程度と少額ですが、その分、計画書も書きやすく、「補助金デビュー」に最適です。
ケース2:「古い機械を新しくしたい」「ITツールで効率化したい」
→ 狙うべきは【補助金】です。
これは「生産性向上」や「DX」という「攻め」の投資です。
- 代表的な補助金(例):
- ものづくり補助金:革新的な設備投資に。補助額が1,000万円を超えることもあり、大型投資に向いています。
- IT導入補助金:会計ソフト、受発注システム、POSレジなど、国が認定したITツールの導入に使えます。
ケース3:「優秀なパートさんを、正社員にしてあげたい」
→ 狙うべきは【助成金】です。
これは「雇用の安定」という「守り」の環境整備です。
- 代表的な助成金:キャリアアップ助成金(正社員化コース)
- 非正規(パート、契約社員など)の従業員を、正社員に転換させた場合に支給されます。
- 1人あたり57万円(※条件により変動)が支給される、非常に人気の助成金です。
- 会社の「核」となる人材を、コストを抑えながら育てることができます。
ケース4:「従業員に、専門的な研修を受けさせたい」
→ 狙うべきは【助成金】です。
これは「人材育成」という「守り」の環境整備です。
- 代表的な助成金:人材開発支援助成金
- 従業員に、社外のセミナーや専門研修を受けさせた際の「経費」や「研修中の賃金」の一部を助成してくれます。
- 従業員のスキルが上がれば、会社の業績も上がります。その「教育投資」を国が後押ししてくれます。
知識ゼロから「受給」まで!最初の一歩はどっちだ?
「よし、ウチは”持続化補助金”(補助金)を狙おう!」
「ウチは”キャリアアップ助成金”(助成金)が合ってるぞ!」
目的が決まったら、次はいよいよ「最初の一歩」です。
しかし、補助金を狙うか、助成金を狙うかで、この「第一歩」が全く違います。
【補助金】を狙うあなたの「第一歩」
補助金申請(特に経産省系)は、現在、そのほとんどが「電子申請」となっています。
その電子申請に必須なのが「GビズID(プライム)」という、企業版のマイナンバーのような「認証ID」です。
- なぜ「第一歩」なのか?このID、申請(郵送手続きあり)から取得まで、平気で2〜3週間かかります。
- 悲劇の例:「使いたい補助金を見つけた!締切は来週末だ!」「申請しようとしたら、GビズIDが必要だと発覚」「今から申請しても、締切までにID発行が間に合わない…」→ 申請すらできずに、チャンスを逃す。
この悲劇が、毎年、日本中で起こっています。
GビズIDの取得は「無料」です。「いつか使うかもしれない運転免許」だと思って、今すぐ「GビズID」と検索し、取得申請を済ませておくこと。
これが、補助金を狙う経営者の、最も賢い「本当の第一歩」です。
【助成金】を狙うあなたの「第一歩」
助成金は「ルールを守ればもらえる」ミッションです。
そして、その「ルール」の土台となるのが「労働法規の遵守」です。
- なぜ「第一歩」なのか?助成金の出どころは「厚生労働省(労働基準監督署の親玉)」です。「法律(ルール)を守らない会社に、ご褒美(助成金)はあげません」というスタンスです。
- 確認すべき「土台」:
- 労働保険(雇用保険・労災保険)に正しく加入しているか?
- 出勤簿(タイムカード)で、労働時間を1分単位で管理しているか?
- その出勤簿に基づき、残業代を100%正しく支払っているか?
- (従業員10名以上なら)就業規則を作成し、労基署に届出しているか?
もし、この「土台」がグラグラな状態で申請しても、審査で100%バレて、「不支給」となります。
助成金を狙うあなたの「第一歩」は、GビズIDではなく、「自社の”労務管理”を総点検すること」です。
不安な場合は、助成金申請のプロである「社会保険労務士(社労士)」に、まず相談することをお勧めします。
まとめ:あなたの会社も「対象」です。まずは「知る」ことから
「補助金」と「助成金」。
もう、その違いに迷うことはありませんね。
- 補助金(コンテスト)
- 「攻め」の投資(モノ・カネ)に
- 審査で「落ちる」
- 事業計画書の「質」が命
- 助成金(ミッション)
- 「守り」の環境整備(ヒト)に
- 要件を満たせば「もらえる」
- 申請の「順番」と「法律遵守」が命
どちらも、あなたの会社を次のステージへ進めるための、国からの「追い風」です。
「ウチみたいな小さな会社は…」と諦める必要は全くありません。
むしろ、小さな会社や個人事業主「専用」の制度(持続化補助金など)が、たくさん用意されています。
あなたの会社も、間違いなく「対象」です。
この記事を読み終えたあなたが、次に取るべき行動は決まっています。
- 「攻め」の投資をしたい → 今すぐ「GビズID」の申請を
- 「守り」の環境整備をしたい → 今すぐ「自社の労務管理」の点検を
まずは、その「第一歩」から始めてみませんか?

