助成金申請、社会保険未加入でも大丈夫?申請前に知っておくべき「加入義務」と「リスク」の境界線

目次

はじめに:「社会保険料が高すぎる…」その悩み、痛いほど分かります

「売上を上げるために助成金を使いたい。でも、社会保険には入っていない(あるいは一部しか入れていない)。これって、申請したらマズイことになる?」

今、この画面を見ているあなたは、そんな不安を抱えているのではないでしょうか。

まず、はっきり申し上げます。その不安は、経営者として非常に正しい感覚です。

社会保険料(健康保険・厚生年金)の会社負担分は決して軽くありません。特に創業間もない時期や、資金繰りが厳しい時期にとって、毎月の固定費が増えることは大きな決断が必要です。「払いたくても払えない」という事情があることも、現場をよく知る私は理解しています。

しかし、補助金・助成金の世界において、この「社会保険」の問題は避けて通れない最大の関門の一つです。

「バレなきゃ大丈夫だろう」

「個人事業主だから関係ないはずだ」

そう思って申請を進めると、単に不採択になるだけでなく、労働局からの調査が入ったり、過去に遡って保険料を徴収されたりと、会社の存続に関わるトラブルに発展するリスクすらあります。

この記事では、数多くの申請支援を行ってきたプロの視点で、「社会保険未加入と助成金申請」の関係について、きれいごと抜きで徹底解説します。

  • どの助成金なら未加入でもOKなのか?
  • どの助成金だとNG(加入必須)なのか?
  • 未加入のまま申請するとどうなるのか?

専門用語は極力使わず、わかりやすく紐解いていきます。この記事が、御社の正しい経営判断の一助となれば幸いです。


1. そもそも「助成金」と「補助金」でルールが違う!

まず最初に、最も重要な区別をしておきましょう。

一般的に「お金がもらえる制度」として一括りにされがちですが、「助成金(厚生労働省系)」と「補助金(経済産業省系)」では、その財源(お金の出どころ)が全く異なります。そのため、社会保険に対する厳しさも全く違うのです。

1-1. 助成金(厚生労働省)=「保険」の還元

  • 主な制度: キャリアアップ助成金、雇用調整助成金、両立支援等助成金など
  • 財源: 会社が支払っている「雇用保険料」
  • 結論: 加入義務があるのに未加入の場合、100%申請できません。

助成金は、皆様が支払っている「労働保険(労災・雇用保険)」を原資としています。言ってみれば、自動車保険のようなものです。保険料を払っていない人が、事故が起きた時だけ「保険金をくれ」と言っても断られますよね? それと同じ理屈です。

さらに、労働環境を良くするための制度なので、「社会保険(健康・年金)」の加入義務がある事業所がそれを守っていない場合、法令遵守(コンプライアンス)違反として申請資格を失います。

1-2. 補助金(経済産業省)=「税金」の投資

  • 主な制度: ものづくり補助金、IT導入補助金、小規模事業者持続化補助金など
  • 財源: 「税金(法人税など)」
  • 結論: 制度によるが、比較的緩やか。ただし近年厳格化の傾向あり。

こちらは「事業を成長させるための投資」という意味合いが強いため、審査のメインは「事業計画の良し悪し」です。

以前は社会保険の加入有無まで厳しく問われないケースもありましたが、最近は「賃上げ要件」などが絡むため、給与台帳や賃金台帳の提出を求められ、結果として加入状況がチェックされるケースが増えています。


2. あなたの会社は「加入義務」がある?ない?

「未加入でも大丈夫か?」を知るためには、まず「自分の会社に法律上の加入義務があるかどうか」を正しく把握する必要があります。

ここが多くの経営者様が勘違いされているポイントです。

「未加入=悪」ではありません。「加入義務があるのに入っていない」のが問題なのです。

ケースA:法人の場合(株式会社、合同会社など)

  • 義務:あり(絶対)
  • 社長一人の会社であっても、社会保険(健康保険・厚生年金)への加入は強制適用です。
  • 「従業員がいないから」は理由になりません。役員報酬が出ているなら加入義務があります。

ケースB:個人事業主の場合(従業員4人以下)

  • 義務:なし(任意)
  • 従業員が4人以下であれば、社会保険への加入は任意です(※一部の危険職種などを除く)。
  • この場合、従業員は国民健康保険と国民年金に加入します。
  • 重要: つまり、このケースであれば、社会保険に入っていなくても堂々と助成金・補助金を申請できます。

ケースC:個人事業主の場合(従業員5人以上)

  • 義務:あり(業種によるが原則必須)
  • 飲食、理容、製造、販売などの法定業種で、常時5人以上の従業員がいる場合は、個人事業主でも社会保険への加入義務が発生します。

※注意:「労働保険(労災・雇用)」は別物!

上記は「社会保険(健康・年金)」の話です。

「労働保険(労災・雇用)」は、法人・個人に関わらず、従業員を1人でも雇えば加入義務があります(週20時間以上なら雇用保険も)。

助成金申請において、労働保険の未加入は問答無用でNGです。


3. 厚生労働省系「助成金」申請のリアルな審査事情

では、人気の高い「キャリアアップ助成金」などを例に、未加入状態で申請しようとすると何が起きるのか、現場のリアルをお伝えします。

3-1. 提出書類で「すべて」バレる

助成金の申請時には、以下の書類の提出が求められます。

  • 労働条件通知書(雇用契約書)
  • 賃金台帳(給与明細)
  • 出勤簿
  • 就業規則

審査官(労働局の職員や社労士)はプロです。賃金台帳を見れば一発で分かります。

「あれ? 給料から社会保険料が引かれていないな?」

「この従業員、フルタイム勤務なのに雇用保険番号がないな?」

こうなると、申請はストップし、「加入状況を確認する書類を出してください」という補正指示が出ます。ここで対応できなければ、不支給決定となります。

3-2. 「もぐり」申請のリスク:藪蛇(やぶへび)になる

これが最も怖いリスクです。

助成金を申請するということは、労働局に対して「うちの会社を見てください!」と手を挙げるようなものです。

もし、加入義務があるのに未加入の状態で申請を出すと、助成金が貰えないどころか、「この会社は法令違反をしている」とマークされます。

その結果、年金事務所や労働基準監督署への通報につながり、強制調査(是正勧告)が入る可能性があります。

調査が入れば、過去2年分に遡って保険料を徴収されることもあります。数百万円単位の請求がいきなり来て、倒産危機に陥る……というのは、決して脅しではありません。


4. 経済産業省系「補助金」ならチャンスはある?

「それなら、社会保険のチェックが緩い『補助金』ならいけるのでは?」

そう考える経営者様も多いでしょう。確かに、可能性はゼロではありません。

4-1. 小規模事業者持続化補助金などの場合

販路開拓(チラシやWeb制作)に使えるこの補助金は、個人事業主や小規模な会社が多く利用しています。

申請書類の中で「社会保険加入の証明書」が必須ではない回もあります(※公募要領は毎回変わります)。

そのため、加入義務のない個人事業主(従業員4人以下)であれば、社会保険未加入でも全く問題なく採択されます。

4-2. 加点項目としての「社会保険」

最近の傾向として、IT導入補助金やものづくり補助金などでは、「法令遵守」を誓約させられます。

そして、一部の補助金では「従業員に賃上げを行い、社会保険等の環境を整備すること」が加点項目(審査で有利になるポイント)になっています。

逆に言えば、「義務があるのに入っていない」状態は、減点どころか、要件不備(対象外)とされるルールが増えてきています。

特に「GBizID(ジービズアイディ)」という電子申請システムを使う際、社会保険の加入データと連携される動きも進んでいるため、「隠し通す」ことは年々難しくなっています。


5. アルバイト・パートなら未加入でもいい?

ここもよくある誤解です。

「正社員はいない、パートだけだから社会保険は関係ない」と思っていませんか?

5-1. 「130万円の壁」と「加入条件」

パートタイムであっても、以下の条件を満たす場合は社会保険への加入義務があります(※会社の規模要件による拡大適用あり)。

  • 週の所定労働時間が正社員の3/4以上
  • 月の所定労働日数が正社員の3/4以上

助成金(特にキャリアアップ助成金)は、「非正規雇用(パート等)を正社員にする」などの取り組みにお金が出ます。

つまり、「対象となるパートさんが、法律通りに正しく雇用管理されているか」が徹底的にチェックされます。

「週30時間以上働いているのに社会保険に入れていないパートさん」を対象に助成金を申請することはできません。

5-2. 役員のみの場合

役員のみで従業員がいない場合、多くの「助成金(厚労省系)」は対象外です(人を雇うための助成金だからです)。

一方、「補助金(経産省系)」は役員のみでも申請可能です。ただし、前述の通り法人の場合は役員の社会保険加入義務があります。


6. どうしても助成金が欲しい!今からできる対処法

ここまで読んで「うちは無理かも…」と落ち込まないでください。

現状がどうあれ、これから正しく整えれば、将来的に助成金を受け取ることは可能です。

ステップ①:まずは「加入義務」の有無をプロに判定してもらう

ご自身で判断せず、社会保険労務士(社労士)に相談してください。「個人事業主だが、この業種・人数ならどうか?」と聞けば、正確な答えが返ってきます。

義務がなければ、堂々と未加入のまま申請すれば良いのです。

ステップ②:義務があるなら「加入してから」申請する

これが唯一の王道です。

「助成金をもらってから、そのお金で加入しよう」という順序は認められません。

しかし、「これから加入手続きを行い、きれいな状態にしてから申請する」ことは大歓迎されます。

例えば、「キャリアアップ助成金」などは、これから社会保険に加入させるタイミングで活用できるコースもあります。

「保険料の負担は増えるが、助成金で一部を補填し、従業員の安心感も高めて採用力を強化する」

このポジティブなサイクルを作ることが、経営改善の第一歩です。

ステップ③:直近は「補助金」で売上を作る

資金繰りの関係ですぐに社会保険加入が難しい場合は、まずは加入要件の厳しくない(あるいは個人事業主として対象になる)「小規模事業者持続化補助金」などで、売上アップの施策を行うことをお勧めします。

そこで利益が出てから、法人化や社会保険加入を検討し、次のステップで大きな助成金を狙うのです。


7. よくある質問(Q&A)

ここでは、実際の現場でよくいただく質問をまとめました。

Q. 建設業の一人親方です。助成金はもらえますか?

A. 従業員を雇っていない一人親方の場合、雇用保険に入れないため、厚労省系の「助成金」は対象外です。ただし、経産省系の「補助金(インボイス対応など)」は対象になります。

Q. 妻を専従者にしています。助成金は?

A. 同居の親族のみで経営している場合、原則として雇用保険の対象とならないため、助成金申請は難しいケースが多いです。ただし、他にも他人(従業員)を雇っていて、条件を満たせば可能な場合もあります。

Q. 過去に未払い期間がありますが、今から払えば申請できますか?

A. 助成金の申請時点で「滞納がないこと」が条件になるケースが多いです。過去の分を清算し、直近の納付期限を守っていれば、申請可能になる制度がほとんどです。


まとめ:助成金は「ご褒美」であり「踏み絵」でもある

最後に、厳しいこともお伝えしましたが、これは御社を守るためです。

助成金や補助金は、国からタダでもらえる「ラッキーなお金」ではありません。

「法律を守り、従業員を大切にし、事業を継続・発展させる意思のある会社」に対して、国が応援として出す資金です。

社会保険への加入は、確かに重い負担です。

しかし、それをクリアすることは、御社が「家業」から「企業」へと脱皮するための通過儀礼でもあります。

【今回の記事のポイント】

  1. 助成金(厚労省系)は、社会保険・労働保険の未加入(義務違反)だと100%無理
  2. 補助金(経産省系)は、個人事業主ならチャンスあり。ただし法人の未加入は厳しい。
  3. 義務があるのに未加入で申請するのは「自爆行為」(調査リスク大)。
  4. まずは社労士等の専門家に「自社の義務の有無」を確認するのが先決。

「今の自社の状態で、どの制度なら使えるのか?」

「社会保険に加入する場合、いくら負担が増えて、いくら助成金が戻ってくるのか?」

こうしたシミュレーションは、一人で悩んでいても答えが出ません。

無理な申請をしてブラックリストに載る前に、ぜひ一度、申請支援のプロフェッショナルにご相談ください。

「正しく整えて、賢くもらう」

それが、長く続く強い会社を作るための一番の近道です。


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