従業員を雇ったら?活用したい「雇用関係助成金」の基礎|採用・定着を加速させる資金調達ガイド

「事業が軌道に乗ってきた。そろそろ手伝ってくれるスタッフを雇いたい」

「アルバイトのAさんが優秀だから、正社員として長く働いてほしい」

「でも、人を雇うと固定費(人件費)が一気に増えるのが怖い……」

事業を拡大する上で、避けては通れないのが「人」の問題です。

一人でやれば気楽ですが、事業を大きくするにはチームが必要です。しかし、経営者であるあなたにとって、毎月の人件費や社会保険料の負担は、胃が痛くなるような重圧かもしれません。

そんな「人の悩み」を持つ経営者様に、ぜひ知っていただきたいのが、厚生労働省が管轄する「雇用関係助成金(こようかんけい じょせいきん)」です。

「名前は聞いたことがあるけど、手続きが面倒そう」

「本当にウチみたいな小さな会社でも使えるの?」

「国からお金をもらうなんて、後で怖いことにならない?」

もし、あなたがそう思って活用を躊躇しているなら、それは非常にもったいないことです。

厳しい言い方をすれば、「もらえるはずの数百万円を、ドブに捨てている」のと同じかもしれません。

助成金は、単なる「お金配り」ではありません。

あなたが従業員を大切にし、法律を守る「良い会社(ホワイト企業)」になろうとする努力を、国が金銭面でバックアップしてくれる「正当な権利」です。

この記事は、初めて従業員を雇う、あるいは雇い始めたばかりの個人事業主・中小企業経営者様に向けた、「雇用関係助成金の基礎・完全攻略ガイド」です。

この記事を最後まで読めば、

「助成金とは何か?」という基本から、

「どの助成金が御社に合っているか」、

そして「失敗しないための申請の鉄則」まで、

すべてがクリアになり、自信を持って「人への投資」ができるようになります。


目次

第1章:そもそも「雇用関係助成金」とは? 補助金との違い

まず最初に、多くの経営者様が混同している「補助金」と「助成金」の違いをハッキリさせましょう。

ここを理解していないと、的外れな検索をして時間を無駄にしてしまいます。

1. 助成金(厚生労働省)=「ミッション達成型」

  • 目的: 雇用の安定、職場環境の改善
  • 財源: 会社が支払う「雇用保険料」
  • 特徴: 競争はありません。 国が定めた要件(ルール)を満たし、書類に不備がなければ、原則として100%受給できます。
  • イメージ: 「この条件をクリアしたら、ご褒美をあげます」というスタンプラリー。

2. 補助金(経済産業省)=「コンテスト選抜型」

  • 目的: 事業の成長、設備投資、販路開拓
  • 財源: 税金
  • 特徴: 審査(競争)があります。 予算枠が決まっているため、どんなに良い計画でも、ライバルより点数が低ければ「不採択(0円)」になります。
  • イメージ: 「一番すごい計画を立てた人に、賞金をあげます」というコンテスト。

「人を雇う」「教育する」「環境を整える」なら、あなたが狙うべきは、確実性の高い【助成金】です。


第2章:なぜ国は「お金」をくれるのか? その裏側を知る

「返済不要のお金がもらえるなんて、うまい話すぎる。裏があるのでは?」

そう疑うのは、経営者として正しい感覚です。

しかし、助成金には明確な「理由」があります。

それは、「雇用保険料の還元」だからです。

あなたは従業員を雇うと、毎月「労働保険料(労災・雇用保険)」を納めますよね。

助成金の原資は、まさにこの保険料です。

つまり、助成金をもらうことは、「今まで支払ってきた(そしてこれからも支払う)保険料の中から、ルールを守って頑張っている会社だけが受け取れる”キャッシュバック”」のようなものなのです。

国としては、

「失業者が増えると困る」

「ブラック企業が増えると困る」

だから、「雇用を安定させ、働きやすい環境を作る会社には、集めた保険料の中から支援金を出そう」という仕組みを作っているのです。

ですから、後ろめたさを感じる必要は全くありません。

むしろ、保険料を払っているのに助成金を使わないのは、「会費だけ払ってサービスを利用しない会員」と同じで、損をしているだけなのです。


第3章:申請できる会社の「最低条件」4つのチェックリスト

「よし、それなら申請しよう!」

そう思ったあなた。ちょっと待ってください。

助成金は「ルールを守る会社」へのご褒美です。

したがって、「法律(ルール)を守っていない会社」は、100%門前払いされます。

以下の4つの条件をクリアしているか、胸に手を当てて確認してください。

条件1:雇用保険に加入していること

これは大前提です。財源である保険料を払っていない会社に、助成金を受け取る資格はありません。従業員を1人でも雇ったら、速やかに加入手続きをしましょう。

条件2:労働時間を「適正」に管理していること

「ウチはタイムカードなんてないよ。時間は適当」

「手書きで毎日9:00〜18:00って書いてるだけ」

これはNGです。助成金の審査では、出勤簿(タイムカード等)の提出が必須です。1分単位での適正な管理が求められます。

条件3:残業代を「全額」支払っていること

「みなし残業だから、いくら働いても固定給」

「うちは小さいから残業代なんてない」

これも通用しません。計算通りに残業代が支払われていない場合、不支給になるどころか、「未払い残業代」の指摘を受けるリスクがあります。

条件4:会社都合の「解雇」をしていないこと

助成金の目的は「雇用の安定」です。

申請する前後(半年〜1年程度)に、会社都合で従業員をクビ(解雇)にしていると、ほとんどの助成金が使えなくなります。

もし「自信がない…」という箇所があれば、申請の前に、まずそこを修正(整備)しましょう。助成金申請は、自社を「ホワイト企業」に生まれ変わらせる最高のチャンスでもあります。


第4章:中小企業が絶対に活用すべき「鉄板の4大助成金」

条件をクリアしたあなたへ。

数ある助成金の中で、特に中小企業・個人事業主が使いやすく、効果が大きい「4つの鉄板」を紹介します。

① キャリアアップ助成金(正社員化コース)

  • どんな時に使う?「アルバイト、パート、契約社員を、正社員にする時」
  • もらえる金額(目安):1人あたり 57万円
  • ポイント:最もメジャーで、最も活用されている助成金です。「いきなり正社員で雇うのはリスクがある」という場合、まずは「契約社員」として採用し、半年間様子を見て、相性が良ければ「正社員」にする。このプロセスを踏むだけで、採用リスクを下げつつ、助成金を受け取ることができます。

② 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)

  • どんな時に使う?「ハローワーク等の紹介で、高齢者(60歳以上)やシングルマザー等を雇い入れた時」
  • もらえる金額(目安):30万円 〜 60万円
  • ポイント:「経験豊富なシニア層を採用したい」「子育て中のママさんを応援したい」という経営者様に最適です。ハローワーク経由での採用が条件となる点に注意してください。

③ 人材開発支援助成金(人材育成支援コース等)

  • どんな時に使う?「従業員に、業務に関連する専門的な研修を受けさせたい時」
  • もらえる金額(目安):研修経費の 45%〜75% + 研修期間中の賃金(時給換算)
  • ポイント:新入社員研修や、新しいスキルの習得など、「教育コスト」を国が負担してくれます。「育ててもすぐ辞めちゃうから…」と教育をためらっているなら、この制度を使ってコスト負担を減らしましょう。

④ 両立支援等助成金(出生時両立支援コース等)

  • どんな時に使う?「男性従業員が育休を取った時」や「育休から復帰できる環境を整えた時」
  • もらえる金額(目安):20万円 〜 数十万円
  • ポイント:今、国が最も力を入れている「育児支援」です。「ウチのような小さな会社で男性育休なんて…」と思うかもしれませんが、これを導入することで「働きやすい会社」というブランディングになり、求人への応募が増える効果も期待できます。

第5章:9割がハマる落とし穴!「申請の順番」を間違えるな

助成金申請において、最も重要かつ、最も多くの人が失敗するポイント。

それは「順番」です。

これを間違えると、100%もらえません。

鉄則:【計画】が先、【実行】は後!

多くの経営者様が、こう考えてしまいます。

「先月、パートのAさんを正社員にしたから、これから申請しよう!」

→ 残念ながら、これは「不支給(0円)」です。

助成金の多く(特にキャリアアップ助成金など)は、

「これから正社員にしますよ」という【計画届】を事前に役所に提出し、認定を受けてから実行しなければならない

というルールがあります。

【正しいステップ】

  1. 計画: 「正社員化コースの計画届」を作成し、労働局へ提出する。
  2. 就業規則: 自社の就業規則に「正社員転換制度」を盛り込む。
  3. 実行: 計画認定後、実際に正社員へ転換する。
  4. 実績: 半年間の給与を支払う。
  5. 申請: 支給申請書を提出する。
  6. 入金: 審査を経て、振り込まれる。

「後出しジャンケン」は認められません。

「人を雇おうかな」「正社員にしようかな」と思った瞬間に、助成金のことを思い出してください。


第6章:助成金活用の「隠れたメリット」

お金がもらえることは大きなメリットですが、実はそれ以上に大きな「経営的な効果」があります。

メリット1:採用力が劇的に上がる

助成金をもらうためには、就業規則を整え、残業代を払い、育休制度などを作る必要があります。

つまり、必然的に「ホワイト企業」になります。

求人票に「研修制度あり」「育休取得実績あり」「正社員登用制度あり」と書けるようになることで、優秀な人材が集まりやすくなります。

メリット2:離職率が下がる

「ちゃんと教育してくれる」「評価して正社員にしてくれる」

そんな環境があれば、従業員は会社を辞めません。

助成金を活用して環境を整えることは、結果として「採用コストの削減」にもつながります。

メリット3:会社のリスク管理ができる

助成金申請の過程で、労務管理の不備(未払い残業のリスクなど)を洗い出し、修正することができます。

これは、将来的な従業員とのトラブル(訴訟など)を未然に防ぐ、最強のリスク管理になります。


第7章:申請はどうする?「自力」vs「専門家」

最後に、誰が申請手続きをするかについてです。

自力で申請する場合

  • メリット: 費用がかからない。
  • デメリット: 申請書類が複雑で、勉強が必要。役所(ハローワークや労働局)に何度も足を運ぶ必要がある。ミスをすると不支給になる。
  • 向いている人: 時間に余裕があり、事務処理が得意な方。

専門家(社会保険労務士)に頼む場合

  • メリット: 手間がほぼゼロ。申請ミスのリスクがない。法改正などの最新情報に対応してくれる。労務管理のアドバイスももらえる。
  • デメリット: 費用がかかる(着手金+成功報酬10〜20%程度が相場)。
  • 向いている人: 本業に集中したい方。確実に受給したい方。労務管理に不安がある方。

助成金は「法律」そのものです。

少しでも不安があるなら、助成金に強い社会保険労務士(社労士)に相談することをお勧めします。

成功報酬型であれば、リスクなくプロの力を借りることができます。


まとめ:人を大切にする会社が、結局は勝つ

従業員を雇う際の「雇用関係助成金」について解説しました。

  • 助成金は「雇用保険料の還元」であり、正当な権利。
  • 「キャリアアップ助成金」などの鉄板制度を活用する。
  • 絶対に「計画届(事前)」の順番を間違えない。
  • 活用することで「ホワイト企業」になり、人が集まる会社になる。

助成金は、国からの「人を大切にする会社になってください」というメッセージであり、エールです。

人を雇うことは、責任を負うことです。

その責任の重さを、助成金という「資金」で少しでも軽くし、あなたの会社を「従業員が幸せに働ける場所」にしてください。

そうすれば、会社は必ず成長します。

まずは、御社の就業規則や出勤簿を引っ張り出して、「最低条件」をクリアできているかチェックすることから始めてみませんか?

その小さな一歩が、数百万の資金と、最高のチームを作るきっかけになるはずです。

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