はじめに:「ウチには特別な強みなんてないよ」…本当にそうですか?
「事業計画書の『自社の強み』欄、何を書けばいいのか全く思いつかない…」
「『美味しい料理を提供している』『親切丁寧な対応』以外に、書くことがない…」
パソコンの画面を前に、カーソルが点滅したまま時間だけが過ぎていく。
今、このページを開いているあなた(御社)も、そんな「産みの苦しみ」を味わっているのではないでしょうか?
補助金・助成金の申請サポートをしていると、多くの経営者様がこう仰います。
「ウチは普通の会社だから、これといった強みなんてないですよ」
断言します。それは間違いです。
強みがない会社など存在しません。もし本当に強みがなければ、御社はとっくに倒産しているはずです。今日まで事業が続き、お客様がお金を払ってくれているという事実こそが、強みが存在する何よりの証拠なのです。
では、なぜ書けないのでしょうか?
それは、強みがないのではなく、「審査員に伝わる言葉(翻訳)に変換できていないだけ」なのです。
補助金の審査員は、あなたの業界の専門家ではありません。
彼らにとって、単なる「美味しい」「高品質」という言葉は、空気のように透明で、何も響きません。
この記事では、数千件の申請書を見てきたプロの視点から、あなたの会社の中に眠る「当たり前の価値」を「最強の武器」に変えるための「言語化フレームワーク」を徹底解説します。
精神論ではありません。
「事実」「メリット」「証拠」という3つのパーツを組み立てるだけで、誰でも驚くほど説得力のある文章が書けるようになります。
この記事を読み終える頃には、あなたの事業計画書は「平凡な紹介文」から「採択を勝ち取るプレゼン資料」へと生まれ変わっているはずです。
1. なぜ「強み」が一番重要なのか?審査の裏側を知る
書き方のテクニックに入る前に、なぜ補助金申請において「強み」の項目が最重要なのか、その理由を知っておきましょう。
1-1. 補助金は「弱者救済」ではなく「強者応援」
多くの経営者様が誤解している点です。
補助金は「経営が苦しいから助けてあげるお金」ではありません。
「強みを持っている企業が、その強みを活かして新しい挑戦をし、さらに成長するためのお金(投資)」なのです。
審査員はこう考えます。
「この会社にお金をあげて、本当に成功するだろうか?」
その判断材料こそが「強み」です。
武器(強み)を持たない兵士を戦場に送り出しても負けるだけです。だからこそ、「私にはこんな強力な武器があります。だから勝てるんです」と証明する必要があるのです。
1-2. SWOT分析の「S(Strength)」がすべての起点
事業計画書の定番フレームワークに「SWOT分析」があります。
- Strength(強み)
- Weakness(弱み)
- Opportunity(機会)
- Threat(脅威)
この中で、全ての戦略の起点になるのが「強み」です。
「この強みがあるから、市場のチャンス(機会)を掴める」というロジックが通っていなければ、その後の事業計画(何を買うか、何を作るか)はすべて説得力を失います。
つまり、「強み」の欄が薄いと、その時点で不採択がほぼ確定すると言っても過言ではありません。
2. あなたの「当たり前」を掘り起こす3つの視点
「強みが必要なのは分かった。でも、やっぱり思いつかない」
そんな時は、以下の3つの視点で自社を見つめ直してみてください。あなたにとっては「当たり前」すぎて気づかなかったことが、他社にはない「宝」であるケースが多々あります。
視点①:ヒト(技術・資格・経験・接客)
中小企業の最大の強みは、実は「人」に宿っています。
- 資格・スキル: 「一級建築士がいる」だけでなく、「業界歴30年の職人がいる」「コンクール入賞歴がある」。
- 経験値: 「創業50年」=「50年間選ばれ続けた信頼がある」。
- 接客: 「マニュアルにない対応ができる」「顧客の顔と好みを全員が覚えている」。
視点②:モノ(商品力・設備・立地)
- 商品: 「国産素材を使っている」「特許技術を使っている」「他では買えない独自ルートがある」。
- 設備: 「地域で唯一この機械を持っている」「24時間稼働できる体制がある」。
- 立地: 「駅前徒歩1分」「競合がいないエリア」「駐車場が広い」。
視点③:コト(関係性・スピード・柔軟性)
- 顧客リスト: 「LINE会員が1,000人いる」「リピート率が80%を超えている」。
- 短納期: 「大手なら1週間かかるところを、即日対応できる」。
- ワンストップ: 「設計から施工、アフターフォローまで自社完結できる」。
【ワーク】
騙されたと思って、「なぜ常連の〇〇さんは、ウチに通い続けてくれるのだろう?」と考えてみてください。
「近いから?」「安いから?」「社長と話したいから?」
その答えこそが、あなたの会社の真の強みです。
3. 採択率爆上げ!「3ステップ・ライティング」の公式
素材が見つかったら、いよいよ文章にしていきます。
ここで絶対にやってはいけないのが、形容詞(すごい、美味しい、丁寧な)だけで終わらせることです。
審査員を納得させるには、以下の「3ステップ公式」に当てはめて書いてください。
【公式】
「事実(Fact)」+「メリット(Benefit)」+「証拠(Evidence)」
- 事実(Fact): 具体的に何があるのか?(客観的なスペック)
- メリット(Benefit): それによって顧客はどう嬉しいのか?(価値)
- 証拠(Evidence): それが本当だと言える数字や実績は?(根拠)
この3つが揃って初めて、強みは「証明」されます。
4. 【業種別】劇的ビフォーアフター例文集
論より証拠です。
よくある「残念な強み」を、上記の公式を使って「採択される強み」に書き換えてみましょう。
ケースA:飲食店の例(ラーメン屋)
× 残念な書き方(Before)
「当店の強みは、こだわりのスープと、お客様への親切な接客です。地元の方に愛される店作りを心がけており、味には自信があります。」
(プロの添削)
これでは何も伝わりません。「こだわり」とは何か?「親切」とは何か? 誰でも書ける文章です。
〇 採択される書き方(After)
【強み:独自製法のスープと高い顧客ロイヤリティ】
1. 事実: 当店は、地元〇〇産の豚骨を48時間煮込み、化学調味料を一切使用しない独自製法のスープを提供しています。
2. メリット: これにより、濃厚でありながら胃もたれせず、子供から高齢者まで毎日食べられる味を実現しています。
3. 証拠: その結果、Googleマップの口コミは平均4.5(件数300件)を獲得し、月間来客数2,000名のうち約70%が週1回以上来店するリピーターで構成されています。
(解説)
- 事実:「48時間煮込み」「化学調味料不使用」
- メリット:「胃もたれしない」「毎日食べられる」
- 証拠:「口コミ4.5」「リピート率70%」これなら、審査員も「なるほど、それは強い」と納得します。
ケースB:建設業・工務店の例
× 残念な書き方(Before)
「当社の強みは、高い技術力と丁寧な施工です。お客様の要望に寄り添い、真面目に仕事に取り組んでいます。」
(プロの添削)
「技術力」という言葉は抽象的すぎます。何ができるから技術力が高いと言えるのでしょうか?
〇 採択される書き方(After)
【強み:有資格者による自社施工とワンストップ対応】
1. 事実: 当社は下請けに丸投げせず、一級建築士を含む全員が有資格者の自社職人チームで施工を行っています。
2. メリット: これにより、中間マージンをカットした適正価格での提供と、顧客の要望を現場にダイレクトに反映する柔軟な変更対応が可能です。
3. 証拠: 創業以来30年間、施工不備によるクレームはゼロ件であり、年間受注の90%がOB顧客からの紹介案件となっています。
(解説)
- 事実:「全員有資格者」「自社施工」
- メリット:「適正価格」「柔軟な対応」
- 証拠:「クレームゼロ」「紹介率90%」
ケースC:美容室・サロンの例
× 残念な書き方(Before)
「当サロンの強みは、最新の機器を使った施術と、アットホームな雰囲気です。」
〇 採択される書き方(After)
【強み:髪質改善に特化した専門技術とカウンセリング力】
1. 事実: 地域で唯一、最新の髪質改善機器「〇〇」を導入し、独自配合のトリートメントを使用しています。また、施術前に必ず30分のカウンセリングを実施しています。
2. メリット: 30代〜50代の女性特有の「うねり」「パサつき」の悩みを根本から解決し、自宅でも再現しやすいスタイルを提供できます。
3. 証拠: 平均客単価は地域平均の1.5倍である15,000円を維持しており、予約サイトでは「髪の悩みが解決した」との高評価を多数獲得し、2ヶ月先まで予約が埋まっています。
5. それでも書けない時に使う「VRIO分析」の魔法
「数値化できる実績なんてないよ…」
「うちは開業したばかりで、リピーターもいない…」
そんな時は、少し視点を変えて「VRIO(ブリオ)分析」というフレームワークを簡易的に使ってみましょう。これは「競合他社がマネできるかどうか」をチェックするツールです。
- Value(経済価値): その強みは、お客様にお金を払わせる価値があるか?
- Rarity(希少性): その強みは、他のお店にはないものか?
- Imitability(模倣困難性): その強みは、他社がすぐにマネできないものか?
- Organization(組織): その強みを活かす仕組みがあるか?
特に重要なのは「I:マネされにくさ」です。
- 「安さ」は、大手資本には勝てません(マネされやすい)。
- 「立地」も、隣に店を出されたら終わりです。
- しかし、「社長のキャラクター」「独自のノウハウ」「長年の信頼関係」は、絶対にマネできません。
「大手チェーン店が隣に来ても、ウチが負けない理由は何だろう?」
この問いかけに対する答えこそが、最強の「強み」になります。
6. 審査員が思わず減点したくなる「NGワード」集
最後に、これを使うと文章が安っぽくなる「禁止ワード」を紹介します。これらを使いたくなったら、グッとこらえて「具体的な言葉」に変換してください。
① 「誠心誠意」「一生懸命」
これらは心構えであって、ビジネスの強みではありません。「24時間以内の返信を徹底している」「アフターフォローで3ヶ月ごとに訪問している」など、行動で示してください。
② 「高品質」「ハイクオリティ」
何をもって高品質とするのか、基準が不明です。「ミリ単位の加工精度」「国産A5ランクのみ使用」など、スペックで示してください。
③ 「いろいろ」「さまざま」
思考停止ワードです。「様々なメニュー」ではなく「50種類以上のメニュー」、「いろいろな業種」ではなく「製造業から小売業まで」と具体化してください。
④ 「業界最安値を目指す」
「目指す」のは自由ですが、実績ではありません。「独自ルートによる仕入れで、市場価格より20%安価」と言い切ってください。
まとめ:あなたの会社は、あなたが思うよりずっと素晴らしい
今回は、申請書における「事業の強み」の書き方について解説しました。
要点を振り返りましょう。
- 強みがない会社はない。 言語化できていないだけ。
- SWOT分析の「強み」が、採択の根拠になる。
- 「事実+メリット+証拠」の公式で文章を組み立てる。
- 「すごい・丁寧」などの抽象語は禁止。 数字と行動で示す。
- 「マネされにくさ(独自性)」をアピールする。
事業計画書を書くという作業は、単なる「お金をもらうための手続き」ではありません。
改めて自社の良さを見つめ直し、「なぜお客様はウチを選んでくれるのか」を再発見する、素晴らしい機会でもあります。
今回ご紹介したフレームワークを使えば、きっと「ウチって、意外とやるじゃん!」と思えるような強みが見つかるはずです。
そして、その自信は必ず文章に乗り移り、審査員の心を動かします。
もし、「自分で書いてみたけれど、これで伝わるか不安だ」「客観的な視点で強みを発掘してほしい」という場合は、ぜひ私たち専門家にご相談ください。
あなたの会社の「埋もれた宝」を掘り起こし、採択される言葉に磨き上げるお手伝いをさせていただきます。
自信を持って、あなたの会社の素晴らしさを書き綴ってください!
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