補助金が「返還不要」じゃなくなるケースとは?まさかの全額返金を防ぐための「収益納付」と「財産処分」完全ガイド

目次

はじめに:「もらいっぱなし」で終わらないのが補助金のルールです

「補助金は融資と違って、返済しなくていいお金だ」

「もらった後は、会社の自由に使っていい」

多くの経営者様(あなた)は、そう認識されているのではないでしょうか?

その認識は、基本的には間違いではありません。銀行融資のように、毎月決まった元本と利息を返済する必要がないのが、補助金・助成金の最大のメリットだからです。

しかし、補助金・助成金のプロとして、ここで警鐘を鳴らさなければなりません。

実は、特定の条件に当てはまってしまうと、「国にお金を返してください(返還)」と言われるケースが存在するのです。

「えっ、そんな話聞いてないよ!」

「もらったお金はもう使っちゃったのに、返せと言われても困る…」

そう青ざめる経営者様を、私はこれまで何人も見てきました。

補助金は、国民の皆様から集めた「税金」が原資です。そのため、「適正に使われているか」「儲けすぎではないか」といった視点で、受給後も厳しく監視されます。

ルールを知らずに無邪気に経営していると、ある日突然、事務局から「返還命令通知」が届くかもしれません。

この記事では、補助金が「返還不要」ではなくなる3つのパターン(収益納付、財産処分、不正受給)について、専門用語を極力使わずに徹底解説します。

特に、真面目な経営者様ほど陥りやすい「収益納付(しゅうえきのうふ)」の仕組みは必読です。

この記事を読めば、返還リスクを正しく理解し、安心して事業拡大にアクセルを踏めるようになります。


1. 補助金を返さなければならない「3つのパターン」

まず、全体像を整理しましょう。

補助金の返還を求められるケースは、大きく分けて以下の3つに分類されます。

  1. 【ハッピーな返還】収益納付(しゅうえきのうふ)
    • 補助金のおかげで、予想以上に利益が出すぎた場合。
  2. 【手続き上の返還】財産処分(ざいさんしょぶん)
    • 補助金で買った機械などを、勝手に売ったり捨てたりした場合。
  3. 【ペナルティの返還】義務違反・不正受給
    • 嘘をついたり、報告義務を怠ったりした場合。

「3」の不正受給がダメなのは当然ですが、多くの経営者様が知らずにハマるのは「1」と「2」です。

それぞれ詳しく見ていきましょう。


2. 実はよくある!利益が出たら返す「収益納付」の仕組み

これが最も誤解を生みやすいルールです。

「補助金を使って儲けるために事業をやっているのに、儲かったら返せっておかしくない?」

そう思うのも無理はありません。

2-1. 「収益納付」とは何か?

補助金は、国がリスクを肩代わりして、企業のチャレンジを応援するものです。

もし、そのチャレンジが大成功して、会社が莫大な利益を得たとします。

その時、国はこう言います。

「その利益は、税金(補助金)のおかげで出たものですよね? ならば、利益の一部を国庫に戻して(納付して)、次の支援の原資にさせてください」

これを「収益納付」と呼びます。

ただし、利益の全額を没収されるわけではありません。また、赤字の場合は支払う必要はありません。

2-2. 対象になるのは「補助金事業」から生まれた利益だけ

ここが重要なポイントです。

会社の「全体の利益」ではなく、「補助金を使って導入した設備から直接生まれた利益」だけが計算対象になります。

  • ケースA: 補助金で新しい機械を導入し、その機械で作った製品がバカ売れした。
    • 収益納付の対象になる可能性が高い。
  • ケースB: 補助金で社内の勤怠管理システムを導入し、業務効率が上がった(コストが下がった)。
    • → 直接的な利益(売上)を生んでいるわけではないので、対象外になることが多い。
  • ケースC: 補助金でホームページを作ったが、そこからの集客効果が具体的にいくらか分からない。
    • → 利益との因果関係が不明確なため、対象外(0円)で報告することが多い。

2-3. いくら返せばいいの?(上限ルール)

「儲けすぎたら全部持っていかれる」わけではありません。

返還額の上限は、「受け取った補助金の額」までです。

例えば、1,000万円の補助金をもらって、その事業で1億円の利益が出たとしても、返すのは最大で1,000万円です。自腹を切って損をすることはありません。

(※計算式は複雑ですが、ざっくり言うと「補助金相当分の利益」を返すイメージです)

【プロのアドバイス】

収益納付は、事業が成功した証(あかし)でもあります。

「返還が嫌だから利益を出さない」と考えるのではなく、「上限まで返還できるほど儲かった!万々歳だ!」と考えるのが、健全な経営者のマインドです。

また、採択後の「事業化状況報告」で正しく計算すれば、納付額がゼロになるケースも多々あります。専門家の知恵を借りるべきポイントです。


3. 機械を売ったらアウト?「財産処分」の落とし穴

次に多いのが、補助金で購入した設備(財産)の取り扱いです。

補助金で買ったものは、会社の資産であると同時に、一定期間は「国の監視下にある資産」でもあります。

3-1. 「5年間」は勝手に処分できない

多くの補助金では、導入した設備に対して「処分制限期間(しょぶんせいげんきかん)」というものが設けられています。

これは法律(減価償却資産の耐用年数等に関する省令)に基づき設定されますが、一般的には「5年間」**と設定されることが多いです。

この期間内に、事務局の許可なく以下のことを行うと、補助金の返還を求められます。

  • 転売する(中古屋に売る)
  • 廃棄する(捨てる)
  • 他人に貸す(有償・無償問わず)
  • 担保に入れる(借金のカタにする)
  • 目的外に使う(パン焼き機を買ったのに、ピザを焼くなど)

3-2. どうしても売りたい・捨てたい時は?

「経営状況が変わって、この機械はもう使わなくなった」

「より高性能な新型機に買い替えたい」

5年も経てば、こうした事情も出てくるでしょう。

その場合は、事前に事務局へ「財産処分承認申請(ざいさんしょぶんしょうにんしんせい)」を提出し、許可を得る必要があります。

許可を得れば処分できますが、ここでもルールがあります。

「処分(売却)して得たお金の一部を、国に返してください」

というものです。

例えば、補助金で買った機械を売って100万円の現金が入ったなら、その一部(残存簿価に応じた額)を返納することで、手打ちにします。

一番まずいのは、「黙って売って、お金を懐に入れる」ことです。これは不正受給とみなされます。


4. 恐怖の「ペナルティ返還」と「加算金」

上記2つは、ルールに則った「正規の手続き」ですが、ここからは絶対に避けなければならない「罰則としての返還」です。

4-1. 虚偽申請・不正受給

  • 架空の機械を買ったことにした。
  • 業者と結託して金額を水増しした。
  • 中古品を新品と偽って申請した。

これらが発覚した場合、補助金の全額返還はもちろんのこと、「年利10.95%の加算金(延滞金)」が上乗せされます。

さらに、悪質な場合は「20%の違約加算金」も追加され、受け取った額以上の莫大な借金を背負うことになります。刑事告発されるリスクもあります。

4-2. 賃上げ未達による返還(事業再構築補助金など)

最近の補助金(特に事業再構築補助金の一部枠)では、「給与総額を年率〇%以上上げること」が必須要件になっている場合があります。

加点項目ではなく「必須要件」の場合、期間内に賃上げを達成できなければ、補助金の一部、または全額の返還を求められることがあります。

「景気が悪いから給料を上げられなかった」という言い訳が通用しない厳しい枠組みもあるので、申請前に公募要領を熟読する必要があります。

4-3. 報告義務違反

補助金をもらった後は、5年間にわたり年に1回、「事業化状況報告(じぎょうかじょうきょうほうこく)」を提出する義務があります。

「もうお金はもらったし、面倒だから無視しよう」

と、事務局からの督促を無視し続けると、最悪の場合「補助金の交付決定取り消し(=全額返せ)」になります。


5. 補助金の種類別・返還リスク一覧

主要な補助金ごとに、返還リスクの傾向を整理しました。

補助金名収益納付財産処分その他の返還リスク
ものづくり補助金ありあり事業化報告をしないとリスク大。
事業再構築補助金ありあり賃上げ未達の場合の返還規定が厳しい。
小規模事業者持続化補助金ありあり少額だが、Webサイトでの収益などが見られる。
IT導入補助金基本なしなしソフトウェア利用料などは財産処分になりにくいが、解約などは要注意。
雇用調整助成金(厚労省)なしなしただし不正受給の調査が極めて厳格。

※IT導入補助金などでも、将来的に利益が明確に出た場合は収益納付を求められる可能性がありますが、システムによる利益算出が難しいため、実質的には稀です。


6. 返還リスクを回避するために、経営者がやるべき3つのこと

ここまで怖い話が続きましたが、正しく対策すれば恐れることはありません。

対策①:経理処理を明確に分ける(区分経理)

「この売上は、補助金で導入した機械から生まれたもの」

「この売上は、既存の事業によるもの」

これらをどんぶり勘定にせず、帳簿上で分けておくことが重要です。

もし分けられない場合、事務局は「会社の全利益」をベースに計算しようとします。

明確に区分経理ができていれば、「補助金事業の利益はこれだけです(他は関係ありません)」と主張でき、収益納付額を適正な範囲(またはゼロ)に抑えることができます。

対策②:報告期限をスマホのカレンダーに入れる

採択後の5年間、年に1回(4月〜6月頃)の報告時期は必ずやってきます。

事務局からのメールを見逃さないよう、担当者任せにせず、社長自身のスケジュール帳に「補助金報告時期」と入れておきましょう。

対策③:機械を動かす時はプロに相談する

「工場が手狭になったので引っ越したい(機械を移動させたい)」

「古くなったので下取りに出したい」

このように、補助金で購入した資産に何らかのアクション(移動・売却・廃棄)を起こす時は、実行する前に必ず認定支援機関(コンサルタントや税理士)に相談してください。

「事後報告」だと手遅れになるケースがありますが、「事前相談」なら正式な手続きを踏んでトラブルを回避できます。


7. まとめ:返還は「悪いこと」とは限らない

今回は、補助金の「返還」について深掘り解説しました。

要点を振り返りましょう。

  1. 「収益納付」は、補助金のおかげで大儲けした時の「幸せな税金還元」。
  2. 「財産処分」は、5年以内に設備を売る・捨てる時の手続き(一部返金あり)。
  3. 「不正・違反」は、ペナルティ付きの強制返還(絶対にNG)。
  4. 「区分経理」をしておけば、必要以上の返還を防げる。
  5. 「報告義務」をサボると、交付決定取り消しのリスクがある。

「後で返すかもしれないなんて、補助金は怖い」

そう思われたかもしれません。

しかし、逆説的ですが、「収益納付(返還)が発生する」ということは、御社の事業が大成功したという証明でもあります。

補助金というブースターを使って事業を垂直立ち上げし、利益をガッツリ出して、その一部を国に返す。これは経営者として非常にカッコいい姿ではないでしょうか。

恐れるべきは、ルールを知らずに違反してしまうことです。

ルールさえ知っていれば、補助金は御社の成長を加速させる最強の味方であり続けます。

ぜひ、正しい知識を持って、堂々と補助金を活用してください。

そして、もし将来的に「これって返還が必要かな?」と迷う場面があれば、自己判断せずに私たち専門家を頼ってください。御社の利益を守るための最適なロジックを一緒に考えます。


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そんな経営者様のために、弊社では採択後の「事業化状況報告作成サポート」も行っております。

面倒な計算や事務局とのやり取りをプロが代行し、返還リスクを最小限に抑えるお手伝いをいたします。まずはお気軽にご相談ください。

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