「やった! 念願の補助金に採択された!」
その喜びも束の間。いざ事業をスタートさせようとした矢先、予期せぬトラブルや状況の変化に見舞われることは、ビジネスの世界では日常茶飯事です。
- 「導入しようとしていた機械が、半導体不足で納期未定になってしまった……」
- 「原材料費が高騰して、申請時の見積もり金額では買えなくなった」
- 「もっと性能が良くて安い新製品が出たので、そちらに変更したい」
こんな時、あなたの頭をよぎるのは、「計画を変えたら、せっかく通った補助金が取り消されるんじゃないか?」という恐怖ではないでしょうか。
結論から申し上げます。
「採択後の計画変更は、正式な手続きを踏めば『可能』です」。
補助金は、一度決めたらテコでも動かないほど融通の利かない制度ではありません。事情が変われば、計画を変えることは認められています。
しかし、そこには「絶対に守らなければならない手順」と「触れてはいけないタブー」が存在します。
ここを間違えると、最悪の場合、補助金の交付取り消し(不支給)や、数年後の返還命令という悪夢が待っています。
この記事では、採択後に計画変更が必要になった際の正しい対処法、申請手続き(計画変更承認申請)の書き方、そしてプロしか知らない「審査事務局との交渉術」までを徹底解説します。
これを読めば、焦ることなく堂々と計画を修正し、あなたの事業を成功へと導くことができるはずです。
1. 採択された後に「計画」を変えても本当に大丈夫?
まずは、補助金制度の「基本のキ」を押さえましょう。
なぜ、多くの経営者が「変更はダメだ」と思い込んでいるのか。それは、補助金が「税金」だからです。
補助金は「事後報告」の厳格な世界
補助金は、「申請書に書かれた通りのことをやりました」という報告(実績報告)をして初めてお金が振り込まれます。
そのため、申請書と違うことを勝手にやってしまうと、「約束が違うじゃないか」となり、お金は出ません。
しかし、国も鬼ではありません。ビジネス環境は刻一刻と変化することを知っています。
「事業の目的(ゴール)が変わらない範囲であれば、手段(プロセス)の変更は認める」というのが、補助金運用の大原則です。
「軽微な変更」と「重要な変更」の違い
変更には大きく分けて2つのレベルがあります。
- 軽微な変更(届出不要、または簡単な報告でOK)
- 単なる型番の末尾変更(後継機への移行で性能が変わらない場合など)。
- 社名の変更、代表者の住所変更など。
- 重要な変更(事前の承認が必要)
- 導入する設備そのものを変える(メーカー変更、スペック変更)。
- 購入金額が大きく変わる(減額・増額)。
- 事業の実施場所を変える。
- 事業終了期限(完了日)を延長する。
今回、この記事で詳しく解説するのは、多くの経営者様が悩む2.「重要な変更」についてです。これは、「勝手にやってはダメ」ですが、「事前にお伺いを立ててOKをもらえばやっていい」というものです。
2. これが正式ルート!「計画変更承認申請」とは?
「重要な変更」を行うために提出するのが、「計画変更承認申請書(けいかくへんこうしょうにんしんせいしょ)」です。
名前が長くて難しそうですが、要するに「事情が変わったので、プランBに変更させてください」というお伺い書です。
最大の鉄則:必ず「発注前・契約前」に行うこと
この記事の中で、ここだけは絶対に覚えて帰ってください。
「変更承認申請は、実際に契約や発注をする『前』に許可をもらわなければなりません」。
よくある失敗例がこれです。
- ×「納期が遅れそうだから、別の業者に発注を変更した。事後報告で事務局に変更届を出そう」
- → アウトです。「事後承認」は原則認められません。最悪の場合、補助対象外となります。
必ず、
- 変更が必要だと判明する
- 事務局に「変更申請」を出す
- 事務局から「承認」の通知が来る
- 新しい内容で発注・契約する
この順番(タイムライン)を守ってください。これが守れるかどうかが、補助金受給の生命線です。
3. よくある変更パターン別:対処法と承認されやすい理由の書き方
では、具体的なシチュエーション別に、どのように対処すべきか、プロの視点で解説します。
パターン①:設備の機種やメーカーを変更したい
「A社の機械で見積もりを出していたが、B社の機械の方が性能が良く、納期も早いことが分かった」といったケースです。
- 難易度: 低~中
- ポイント: 「なぜ変える必要があるのか」をポジティブに伝えます。
- 理由書の書き方(例):
- 「申請時に予定していたA社の機種は、世界的な部品不足により納期が6ヶ月以上遅延することが判明し、補助事業期間内の完了が困難となりました。一方、同等の性能を有し、かつ即納可能なB社の機種に変更することで、事業計画通りに生産を開始でき、目的達成が確実となります。」
このように、「変更した方が、事業の成功確率は上がる(またはリスクを回避できる)」というロジックで説明すれば、ほぼ承認されます。
パターン②:購入金額が変わる(安くなる・高くなる)
見積もりの有効期限が切れ、再見積もりを取ったら金額が変わっていたケースです。
- ケースA:安くなる(減額)
- これは問題ありません。ただし、補助金額も連動して減る可能性があります(補助率等の計算による)。
- 余った予算で「別のもの」を勝手に買うのはNGです。
- ケースB:高くなる(増額)
- ここが要注意です。基本的に、「採択時の補助金上限額」が増えることはありません。
- 経費が100万円上がったとしても、補助金は増えません。その差額は全額「自己負担」となります。
- 変更申請では、「高くなった分は自社で負担します」と明記することで承認されます。
パターン③:事業完了期限に間に合わない(期間延長)
「建物の改装工事が、資材不足で遅れている」「機械の納品が遅れている」など、どうしても期限(通常は1月〜2月頃)までに事業が完了しない場合です。
- 難易度: 高(正当な理由が必要)
- ポイント: 「自己都合」での遅れは認められません。「不可抗力」が必要です。
- 認められる理由の例:
- 「台風・地震などの災害」
- 「昨今の世界情勢によるサプライチェーンの混乱(メーカーからの遅延証明書が必要)」
- 認められない理由の例:
- 「忙しくて発注を忘れていた」
- 「資金調達に手間取った」
「事故繰越(じこくりこし)」という手続きを行うことで、翌年度まで期限を延ばせる場合がありますが、ハードルは高いと思ってください。早め早めの行動が肝心です。
4. 絶対に承認されない「NGな変更」とは?
いくら変更申請を出しても、「それは流石にダメです」と却下されるケースがあります。
これを知らずに変更申請を出すと、藪蛇(やぶへび)になりかねませんので注意が必要です。
NG例①:事業の「目的」が変わってしまう変更
例えば、「高級フレンチレストランを開業する」という計画で採択されたのに、「やっぱり需要がありそうなラーメン屋にします」と変更する場合。
これは「別事業」とみなされ、認められません。あくまで「採択された事業計画」の枠内での微修正しか許されません。
NG例②:補助対象外の経費への変更
「機械を買う予定だったが、やっぱり車(社用車)を買いたい」
「広告宣伝費をやめて、パソコン代に充てたい」
汎用性の高いもの(車やPC)や、当初の計画と全く関係のない経費への振替は認められません。特に、費目(機械装置費、広告宣伝費など)をまたぐ変更は、補助金ごとのルール(流用制限)があるため要注意です。
5. 変更申請のリアルなデメリットとリスク
「手続きすれば変更できるなら、とりあえず変更しちゃおう」と安易に考えるのは危険です。
変更申請には、目に見えないコストとリスクが伴います。
デメリット①:審査に時間がかかり、事業がストップする
変更申請を出してから承認が下りるまで、通常2週間〜1ヶ月程度かかります。
事務局が混雑している時期はもっとかかります。
前述の通り、承認が下りるまでは「発注」できません。
つまり、変更申請を出している間、あなたの事業は完全にストップ(足踏み)状態になります。
「急いで機械を入れたい!」という時に、この1ヶ月のロスタイムは致命傷になりかねません。
デメリット②:事務処理の手間が激増する
通常の報告書類に加えて、変更の経緯を説明する書類、新旧の見積書比較、カタログ比較など、作成書類が山のように増えます。
経営者ご自身でやる場合、本業の時間をかなり圧迫することになります。
6. スムーズに変更承認を勝ち取るための「3つのコツ」
それでも変更せざるを得ない場合、最短で承認をもらうためのコツを伝授します。
コツ①:事務局へ電話して「事前相談」をする
いきなり書類を送りつけるのではなく、まずは事務局のコールセンターや担当者に電話を入れましょう。
「こういう事情で変更したいのですが、認められますか? どのような書類が必要ですか?」と聞くのです。
担当者によっては、「その理由だと通りにくいので、書き方をこうしてください」とアドバイスをくれることもあります。彼らを味方につけるのが近道です。
コツ②:変更理由は「不可抗力」+「前向き」で
単に「気が変わった」と思われないように書くのがポイントです。
- 悪い例: 「A社の機械が使いにくそうだったから」
- 良い例: 「操作習熟にかかる時間を短縮し、早期に収益化を図るため、より操作性の高いB社の機械に変更したい」
「仕方なく変える」側面と、「変えた方が事業にとってプラスになる」側面をセットで記述しましょう。
コツ③:認定支援機関(コンサルタント)に頼る
もし申請時にサポートしてくれた認定支援機関がいるなら、すぐに相談してください。
彼らは変更申請のプロでもあります。面倒な書類作成を代行してくれたり、承認されやすい理由書の書き方を熟知していたりします。
自力でやって突き返されるより、プロの手を借りて一発で通す方が、結果的に時間の節約になります。
7. まとめ:計画変更は「悪」ではない。事業成功のための「調整」だ
長くなりましたが、採択後の計画変更について解説してきました。
ポイントを振り返ります。
- 採択後の計画変更は可能。ただし、事前の「承認」が絶対条件。
- 発注・契約してしまった後の変更は原則NG(取り返しのつかないミスになる)。
- 変更申請中は事業がストップするので、スケジュールの余裕が必要。
- 「事業の目的」が変わらない範囲で、「より良くするため」の変更なら歓迎される。
経営とは、予測不能な荒波を航海するようなものです。
最初に描いた海図(計画書)通りに進めることだけが正解ではありません。嵐が来たらルートを変え、風向きが変われば帆の向きを変える。
その柔軟な判断こそが、経営者の手腕です。
補助金のルールは確かに厳格ですが、その本質は「あなたの事業を成功させること」にあります。
もし計画変更が必要になったら、恐れずに手続きを進めてください。正しい手順さえ踏めば、事務局も国も、あなたの柔軟な対応を応援してくれるはずです。
「うちは採択されたけど、今の状況で変更できるのかな?」
「変更申請書の書き方が難しくて分からない……」
もしそうお悩みであれば、一人で抱え込まずに専門家に相談することをお勧めします。
せっかく掴んだ「採択」という切符を、手続きのミスで無駄にしないよう、最後まで慎重に、かつ大胆に事業を進めていきましょう。
あなたの決断が、事業をより良い方向へ導くことを信じています。

