補助金で購入した設備、いつ売却できる?「財産処分制限」のルールと、ペナルティを回避する正しい手続きを徹底解説

「補助金で買った機械、あまり使わなくなったから売り払って現金化したい」

「新しいモデルが出たから、下取りに出して買い替えたい」

「資金繰りが厳しいから、補助金で買った設備を担保にお金を借りたい」

経営者の皆様、ふとそんなことを考えたことはありませんか?

ビジネスは生き物です。申請した当時は「絶対に必要だ」と思った設備でも、数年経てば事業方針が変わったり、より良い設備が登場したりすることは当然あります。

しかし、ここで「ストップ!」をかけさせてください。

もし、補助金で購入した設備を、国に黙って勝手に売ったり、捨てたり、他の目的に使ったりすると……

最悪の場合、「補助金の全額返還」に加えて、「年利10.95%の加算金(罰金のようなもの)」を請求される可能性があります。さらに、あなたの会社名が「不正受給者」として公表され、今後一切の補助金が受けられなくなるリスクさえあるのです。

脅すようなことを言って申し訳ありません。しかし、これは決して大袈裟な話ではなく、実際に起きているトラブルなのです。

補助金には、「財産処分制限(ざいさんしょぶんせいげん)」という厳しいルールが存在します。

簡単に言えば、「国のお金で買ったんだから、勝手なことしないでね」という縛りです。

とはいえ、未来永劫売れないわけではありません。ルールを知り、正しい手続きを踏めば、売却も処分も可能です。

この記事では、多くの経営者様が知らずに違反してしまいがちな「財産処分のルール」について、専門用語を使わずに噛み砕いて解説します。

これを読めば、いつ売れるのか、いくら返せばいいのか、どうすればペナルティを受けずに済むのか、その全てが分かります。


目次

1. そもそも「財産処分制限」とは? なぜ勝手に売ってはいけないのか

まずは、このルールの「根本的な考え方」を理解しましょう。ここが腹落ちしていれば、怖いことはありません。

補助金は「みんなの税金」でできている

あなたが受け取った数百万円、数千万円の補助金。その原資は国民の血税です。

国は、「あなたの会社が成長し、地域経済を良くしてくれること」を期待して投資しました。

それなのに、補助金で買った設備をすぐに転売して、会社が利益を得てしまったらどうでしょうか?

それは実質的に、「国の税金を右から左へ流して、自分の懐に入れた」ことになってしまいます。これを「補助金の目的外使用」や「不当利得」と呼びます。これ防ぐためのルールが「財産処分制限」です。

「売却」だけじゃない! これも全部「処分」です

多くの経営者様が「売らなきゃいいんでしょ?」と勘違いされています。

しかし、この「処分」という言葉の範囲は、驚くほど広いです。以下の行為はすべて、国の許可なく行ってはいけません。

  1. 売却・譲渡: お金に変えること、または無償であげること。
  2. 廃棄・除却: 捨てること、スクラップにすること。
  3. 転用(目的外使用): 申請した事業とは別の事業で使うこと。
    • (例)「カフェ事業」で申請して買った冷蔵庫を、自宅に持ち帰って使う。
  4. 貸付: 他社にレンタルすること。
  5. 交換: 新しい機種への買い替えで下取りに出すこと。
  6. 担保提供: 銀行からお金を借りるために担保に入れること。

つまり、「申請した通りの場所で、申請した通りの目的で、自社で使い続ける」こと以外は、基本的にすべて「アウト(要手続き)」だと考えてください。


2. いつまで我慢すればいい? 制限期間の「5年ルール」と「法定耐用年数」

では、この縛りはいつまで続くのでしょうか?

一生売れないとなると、経営の足かせになってしまいますよね。

原則は「法定耐用年数」まで

ここが少しややこしいのですが、補助金の種類や設備のジャンルによって期間が異なります。

基本的には、減価償却資産の「法定耐用年数(ほうていたいようねんすう)」の期間中は、勝手な処分が禁止されています。

  • パソコン・サーバー: 4年~5年
  • 金属製の工具・器具: 3年
  • 車両(貨物): 5年
  • 機械装置: 業種により異なる(例:飲食業の厨房機器は8年など)

税務申告をする際に設定している「耐用年数」と同じです。この期間内は、まだ価値が残っているとみなされるため、処分には制限がかかります。

多くの補助金は「5年」を目安にしている場合も

ただし、補助金によっては(例えばIT導入補助金など)、一律で「交付決定から数年間」と定めている場合もあります。

多くの中小企業向け補助金(ものづくり補助金、事業再構築補助金など)では、公募要領に特例がない限り、「法定耐用年数を経過するまで」管理する義務があります。

逆に言えば、法定耐用年数を過ぎた翌日からは、自由に売っても、捨てても、誰にあげても、国への報告は一切不要です。

まずは、自社の台帳を見て、その設備の耐用年数が何年なのかを確認しましょう。


3. それでも処分したい時の「正規ルート」解説

「法定耐用年数が10年もある機械だけど、事業転換でもう使わない。邪魔だから処分したい」

「どうしても資金が必要で、売却したい」

そんな時は、どうすればいいのでしょうか。

答えは、「事前に国(事務局)へ『承認申請』を出し、許可をもらってから処分する」です。

手続きの流れ(フローチャート)

絶対に、「処分する前(売る前・捨てる前)」に行ってください。事後報告は認められません。

  1. 【事業者】 処分したい理由が発生する。
  2. 【事業者】 事務局へ「財産処分承認申請書(ざいさんしょぶんしょうにんしんせいしょ)」を提出する。
    • なぜ処分が必要なのか?
    • いくらで売れるのか?(見積書などを添付)
  3. 【事務局】 内容を審査し、「承認通知」を出す。
    • この時、「補助金の一部を返してください(納付命令)」という条件がつくことが多いです。
  4. 【事業者】 承認通知を受け取ってから、実際に売却・廃棄を行う。
  5. 【事業者】 売却完了後、指定された金額を国へ返納する。

この手順を踏めば、ルール違反にはなりません。堂々と処分できます。

ただし、ポイントは「お金を返さなければならないケースが大半である」という点です。


4. 怖くない!「返還金額(納付額)」の計算メカニズム

「せっかくもらった補助金を返すなんて損だ!」と思われるかもしれません。

しかし、全額返すわけではありません。「残存価値(まだ使える期間)の分だけ返してね」という考え方です。

いくら返すことになるのか、計算のイメージを掴んでおきましょう。

※補助金制度によって計算式が微妙に異なりますが、一般的な考え方を紹介します。

ケースA:売却してお金が入ってくる場合(有償譲渡)

設備を売って利益が出た場合、国は「その利益の一部は、税金のおかげだよね?」と考えます。

  • 計算イメージ:
    • (補助金でもらった額)×(残りの耐用年数 ÷ 全体の耐用年数)
    • あるいは、売却額をベースに補助率を掛けた金額。

基本的には、「売却額」か「補助金の残存簿価相当額」の高い方を上限に、国へ納付することになります。

つまり、「補助金をもらって、さらに売却益でボロ儲け」はできない仕組みになっています。逆に言えば、手元に残るお金がマイナスになるほどの過剰な請求はされません。

ケースB:廃棄してゼロになる場合(廃棄・除却)

壊れてしまったり、古すぎて値がつかないため廃棄する場合です。

この場合、売却益は発生しません。

  • 天災などの不可抗力: 地震や火災で燃えてしまった場合などは、証明書(罹災証明書など)を出せば、返還不要(0円)になるケースが多いです。
  • 自己都合の廃棄: 「邪魔だから捨てる」という場合は、残存価値分の返還を求められることがあります。ただし、評価額がゼロであれば返還不要になることもあります。

ここが重要です。「自己判断で捨てずに、必ず事務局に相談して金額を確定させてから捨てる」こと。これが鉄則です。


5. よくあるトラブルQ&A「こんな時はどうなる?」

ここでは、現場でよくある具体的なシチュエーションについて、プロの視点で回答します。

Q1. 下取り(トレードイン)はどうなりますか?

A. 立派な「財産処分」に当たります。

新しい機械を買う際に、業者に古い機械(補助金で買ったもの)を引き取ってもらい、その分値引きしてもらう行為。これは「売却」と同じ扱いです。

必ず、下取りに出す前に承認申請が必要です。

Q2. 盗難に遭ってしまいました……。

A. 警察への被害届と、事務局への報告が必要です。

盗まれた場合、あなたの責任ではありませんが、モノがなくなった事実は変わりません。

警察が発行する「盗難届の受理番号」や「被害届」の写しを添えて、事務局に「事故報告」を行います。不可抗力と認められれば、補助金の返還は免除されるのが一般的です。

Q3. 「少額の備品」も対象ですか?

A. 単価50万円未満(税抜)のものは、制限を受けない場合があります。

多くの補助金(ものづくり補助金など)では、「単価50万円(税抜)以上の機械装置やシステム」が財産処分の管理対象となります。

これより安いパソコンや工具などは、消耗品扱いとして、自由に処分して良いルールになっていることが多いです。

※ただし、複数の機器をセットで1つの資産として登録している場合は、セット全体で判断されます。必ず「取得財産管理台帳」を確認してください。

Q4. 会社が倒産・廃業する場合は?

A. 破産管財人等を通じて手続きが必要です。

事業継続が不可能になった場合、補助金の目的(事業継続・発展)が達成できなくなるため、原則としては補助金の返還義務が生じます。ただし、資産価値がない場合などは柔軟な対応がなされることもあります。廃業を決める前に、必ず専門家や事務局へ相談してください。


6. 知らなかったでは済まされない! 無断処分のペナルティ

もし、この記事で書いた手続きを無視して、こっそり売ってしまったらどうなるのか。

改めてリスクを整理します。

  1. 補助金の全額返還(+加算金):
    • 残存価値分だけでなく、受給した全額+年利10.95%のペナルティを請求される可能性があります。消費者金融並みの利息です。
  2. 刑事告発の可能性:
    • 悪質な場合(最初から転売目的だった場合など)は、詐欺罪などで刑事告訴されるリスクがあります。
  3. 社名の公表・ブラックリスト入り:
    • 「不正を行った企業」として経済産業省等のHPに社名が載ります。信用は地に落ち、銀行融資も止まるでしょう。そして、今後二度と補助金は受けられません。

「バレないだろう」は甘いです。

会計検査院の実地調査が入ったり、取引先からの通報があったり、SNSでの投稿から発覚したりします。リスクとリターンが見合いません。


7. まとめ:ルールを守れば「売却」は怖くない

長くなりましたが、財産処分制限について解説してきました。

ポイントを振り返ります。

  1. 補助金で買った設備は、法定耐用年数が過ぎるまで勝手に処分(売却・廃棄・転用)してはいけない。
  2. 単価50万円(税抜)以上の設備が主な対象。
  3. 処分したい場合は、必ず「事前」に「承認申請」を行う。
  4. 承認されれば売却可能だが、補助金の一部返還(残存価値分)が必要になるケースが多い。
  5. 無断処分は、全額返還+ペナルティの重罪。

「なんだか面倒くさいな……」と思われたかもしれません。

しかし、補助金をもらうということは、それだけ重い責任(公金運用の責任)を負うということです。

裏を返せば、「正規の手続きさえ踏めば、事業変更も売却も可能」だということです。

事業環境が変わったのに、無理して使い続ける必要はありません。適正な金額を返納して、身軽になって新しい事業に投資するのも、立派な経営判断です。

迷ったら、まずは「台帳」を確認

もし今、「あの設備、どうしようかな」と迷っているなら、まずは補助金事業完了時に作成した「取得財産管理台帳(きゅとくざいさんかんりだいちょう)」を引っ張り出してください。

そこに、「処分制限期間(いつまで)」が書かれているはずです。

「台帳が見当たらない」

「具体的な返還額をシミュレーションしたい」

「事務局への申請書の書き方が分からない」

そんな時は、独断で進めずに、申請をサポートしてくれた認定支援機関(コンサルタントや税理士)に相談してください。

彼らは面倒な手続きのプロです。リスクを回避し、最も損をしない方法をアドバイスしてくれるはずです。

ルールを正しく理解し、クリーンな経営で、次の成長(そして次の補助金採択!)を目指しましょう。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次