補助金・助成金をもらうと税金はかかる?恐怖の「課税」を回避する裏ワザ『圧縮記帳』と、正しい会計処理完全ガイド

目次

はじめに:「やった!1,000万円入金だ!」…でも、その3割が消えるとしたら?

「苦労して申請した補助金がついに採択され、無事に入金された!」

通帳の残高が増えているのを見て、ほっと胸を撫で下ろしている経営者様(あなた)。まずは、本当におめでとうございます。

しかし、その喜びの絶頂で、水を差すようなことを申し上げなければなりません。

あなたは今、「税務署」からも注目されています。

「補助金は国からのお祝い金みたいなものでしょ? 税金なんてかからないよね?」

もし、そう思っていたとしたら、今すぐその認識を改めてください。

結論から申し上げます。

原則として、補助金・助成金にはガッツリと「税金」がかかります。

何も対策をせずに決算を迎えると、せっかく受け取った1,000万円のうち、約300万円(実効税率約30%の場合)を税金として持って行かれる可能性があります。

「設備投資でお金を使い果たしてしまったのに、納税資金がない!」

そんな黒字倒産のような事態に陥る経営者様を、私は何人も見てきました。

ですが、安心してください。

国も鬼ではありません。「せっかく支援したのにお金を取り上げたら意味がない」ことは理解しています。

そのため、「圧縮記帳(あっしゅくきちょう)」という、税金の支払いを合法的に先送りできる「特例ルール」を用意してくれています。

この記事では、補助金・助成金にまつわる税金の仕組み、正しい会計処理(仕訳)のタイミング、そして経営者の必修科目である「圧縮記帳」のメリット・デメリットについて、専門用語を極力使わずに徹底解説します。

これを読めば、決算直前に慌てることなく、手元に残るキャッシュを最大化するための税務戦略が立てられるようになります。


1. 結論:残念ながら、補助金は「利益」とみなされます

まずは残酷な現実と、その理由をしっかり理解しておきましょう。

1-1. 会計上の扱いは「雑収入(ざつしゅうにゅう)」

企業会計や税務の世界では、会社に入ってくるお金は基本的にすべて「収益」です。

本業の売上だろうが、銀行利息だろうが、国からの補助金だろうが、「資産が増えた」という事実は変わりません。

そのため、補助金を受け取った場合、勘定科目は「雑収入」として計上されます。

雑収入は、売上総利益などと合算され、最終的な「当期純利益」の一部となります。

そして、この利益に対して税金(法人税など)が課せられるのです。

1-2. 法人なら「法人税」、個人なら「所得税」

  • 法人の場合:補助金も含めた年間の利益に対して、法人税・法人住民税・法人事業税がかかります。これらを合わせた「実効税率」は、会社の規模や利益額にもよりますが、約30%〜34%程度です。
  • 個人事業主の場合:補助金は「事業所得」の収入金額に含まれます。ご自身の所得税率(累進課税)に応じて、5%〜45%の所得税+住民税(約10%)がかかります。稼いでいる人ほど、半分近く持っていかれる計算になります。

1-3. 例外:税金がかからない給付金もある

コロナ禍で支給された「特別定額給付金(国民一人一律10万円)」などは非課税でしたが、事業者が申請する「持続化給付金」「休業協力金」などは、基本的にすべて「課税対象」でした。

今回のテーマである「ものづくり補助金」や「IT導入補助金」、「キャリアアップ助成金」なども、すべて課税対象です。「非課税のものはほぼない」と考えておくのが安全です。


2. 何もしないとどうなる? 恐怖の課税シミュレーション

では、具体的な数字で見てみましょう。

ここを理解すると、なぜ後述する「圧縮記帳」が必要なのかが分かります。

【ケース】1,000万円の機械を買い、1,000万円の補助金をもらった場合

(※分かりやすくするため、補助率10/10、自己負担ゼロという極端な例で計算します)

  1. 支出: 機械を買って、1,000万円が出ていった。
  2. 収入: 補助金として、1,000万円が入ってきた。

「プラスマイナスゼロだから、利益は出ていないのでは?」

普通の感覚ならそう思いますよね。しかし、会計のマジック(減価償却)がここで悪さをします。

会計上の見え方(1年目)

  • 収入(雑収入): +1,000万円 (補助金全額が今期の収益)
  • 経費(減価償却費): −100万円 (※耐用年数10年・定額法の場合)

機械の代金1,000万円は、買った年に全額経費になるわけではありません。「減価償却(げんかしょうきゃく)」といって、10年かけて少しずつ経費にしていきます。

つまり、1年目は100万円しか経費になりません。

  • 差し引き利益: 1,000万 − 100万 = 900万円の黒字

なんと、キャッシュ(現金)は増えていないのに、帳簿上は「900万円儲かった」ことになってしまうのです!

発生する税金

この900万円に対して約30%の税金がかかるとすると…

900万円 × 30% = 270万円

手元には機械があるだけで、現金は1円も増えていないのに、「270万円の税金を現金で払え」と言われるわけです。

これが、補助金を受け取った直後に資金繰りが悪化する「補助金貧乏」の正体です。


3. 救世主登場!税金を先送りする裏ワザ「圧縮記帳」とは?

「そんな理不尽なことがあってたまるか!」

という経営者様の悲鳴に応えるために用意されているのが、「圧縮記帳(あっしゅくきちょう)」という制度です。

3-1. 魔法の仕組み:機械の値段を「安く買ったこと」にする

圧縮記帳を使うと、受け取った補助金の額だけ、買った固定資産(機械など)の取得価額を減らすことができます。

【圧縮記帳を使った場合の処理】

  1. 収入(雑収入): +1,000万円
  2. 経費(圧縮損): −1,000万円 (※ここで相殺!)
  3. 差し引き利益: 0円

「補助金収入」と同額の「圧縮損(あっしゅくそん)」という経費を計上することで、当期の利益をゼロにします。

利益がゼロなので、かかる税金もゼロ(0円)です。

これなら、手元の資金がなくても大丈夫ですね。

3-2. 「税金免除」ではなく「繰り延べ(先送り)」である

「すごい!税金を払わなくていいんだ!」

と喜ぶのは少し早いです。これは税金が消滅したわけではありません。

圧縮記帳をすると、機械の値段(簿価)が下がります(上記の例だと、機械の簿価が0円になります)。

簿価が0円ということは、「翌年以降、減価償却費(経費)が計上できない」ということを意味します。

  • 通常の場合: 毎年100万円ずつ経費計上でき、その分税金が安くなっていた。
  • 圧縮記帳の場合: 経費が0円になるので、その分、毎年の利益が増え、税金が高くなる。

つまり、「1年目にドカンと払うはずだった税金を、10年間の分割払いに変更した」というのが、圧縮記帳の正体です。

トータルで支払う税金の額は同じです。

しかし、資金繰りの観点から見れば、1年目のキャッシュアウトを防げるメリットは計り知れません。

3-3. 圧縮記帳の2つの方法

実務的には、以下の2つの方法があります。

  1. 直接減額方式(ちょくせつげんがくほうしき):機械の帳簿価額を直接減らす方法。分かりやすいが、決算書上で機械の値段が実態より安く表示される。
  2. 積立金方式(つみたてきんほうしき):決算書の「純資産」の部に積立金を計上する方法。機械の値段はそのまま残る。経理処理は少し複雑だが、株主や銀行に対して資産規模を正しく見せられる。

中小企業の実務では、分かりやすい「1. 直接減額方式」が採用されることが多いですが、顧問税理士と相談して決めてください。


4. いつ計上する?「入金日」ではなく「決定日」の罠

次に、会計処理のタイミング(いつの売上にするか?)についてです。

ここを間違えると、税務調査で「計上漏れ(脱税)」を指摘されるリスクがあります。

4-1. 原則は「交付決定日(確定通知日)」

補助金の入金プロセスは以下の通りです。

  1. 採択通知(合格)
  2. 交付申請・交付決定(契約)
  3. 事業実施・報告
  4. 額の確定通知(金額決定)
  5. 入金(キャッシュイン)

会計上、収益を計上すべきタイミングは、原則として「4. 額の確定通知を受けた日」です。

「5. 入金された日」ではありません。

4-2. 決算をまたぐ時の注意点(未収金計上)

最も注意すべきは、「確定通知は届いたけど、入金は来期になった」というケースです。

  • 3月31日: 決算日
  • 3月25日: 確定通知が届いた(1,000万円)
  • 4月20日: 銀行口座に入金された

この場合、3月決算の会社は、まだお金が入っていなくても、今期(3月期)の利益として1,000万円を計上しなければなりません。

勘定科目は「未収金(または未収収益)」を使います。

これを忘れて「来期の売上にしよう」とすると、今期の利益を過少申告したことになり、追徴課税の対象になります。通知書の日付を必ず確認してください。


5. 消費税はどうなる?「不課税」だけど要注意

法人税だけでなく、消費税の扱いも気になるところです。

5-1. もらう補助金は「不課税(ふかぜい)」

消費税は、「対価を得て行う取引(何かを売ったりサービスしたり)」にかかります。

補助金は、国からの給付であり対価性がないため、消費税はかかりません(不課税取引)。

つまり、受け取った1,000万円の中に消費税は含まれていません。受け取った時に消費税を預かったことにして納税する必要はありません。

5-2. 使う経費は「課税仕入れ」

一方、補助金を使って機械を買ったり、業者に支払ったりした経費には、消費税がかかります。

これは通常の経費と同じく、「課税仕入れ」として、支払った消費税を控除(仕入税額控除)することができます。

5-3. 忘れてはいけない「消費税の返還義務」

ここがややこしい点ですが、重要です。

「補助金で機械を買った時、支払った消費税分まで国から補助してもらっている」場合。

後で確定申告をして、その消費税分が還付(戻ってくる)されたり、納税額が減ったりすると、「消費税分だけ二重取り(得をした)」状態になります。

この場合、「得をした消費税分を国に返しなさい」というルールがあります(消費税仕入控除税額報告書)。

補助金入金の翌年以降に報告・納付が必要になることが多いので、頭の片隅に入れておいてください。


6. 個人事業主ならではの悩みポイント

個人事業主の場合、法人とは少し考え方が異なります。

6-1. 「事業所得」か「一時所得」か?

  • 事業所得: 事業に関連して受け取ったもの(持続化補助金、ものづくり補助金、雇用調整助成金など)。
  • 一時所得: 事業とは直接関係ないもの(すまい給付金など)。

基本的に、事業のために申請した補助金・助成金はすべて「事業所得」の雑収入になります。

事業所得として、青色申告決算書や収支内訳書の「その他の収入」欄に記入します。

6-2. 圧縮記帳は個人でも使える?

はい、使えます。

「国庫補助金等の総収入金額不算入」という規定を使えば、法人と同じように税金の繰り延べが可能です。

確定申告書に明細書を添付する必要があるので、少し手続きが複雑になります。ご自身で申告されている方は、この年だけは税理士に相談することをお勧めします。


7. よくある仕訳(しわけ)パターンまとめ

最後に、実務ですぐ使える仕訳例をまとめておきます。

(※圧縮記帳(直接減額方式)を行う場合)

① 補助金の額が確定した時(まだ入金前)

借方金額貸方金額摘要
未収金1,000雑収入1,000補助金確定通知受領

② 補助金が入金された時

借方金額貸方金額摘要
普通預金1,000未収金1,000補助金入金

③ 機械を購入した時

借方金額貸方金額摘要
機械装置1,000普通預金1,000機械購入

④ 決算時(圧縮記帳の実行)

借方金額貸方金額摘要
固定資産圧縮損1,000機械装置1,000圧縮記帳による減額

これで、機械の帳簿価額が0になり、雑収入(収益)と圧縮損(費用)が相殺されます。


まとめ:税金まで考えてこそ「プロの経営者」です

今回は、補助金・助成金にまつわる税金と会計処理について解説しました。

要点を振り返りましょう。

  1. 補助金は「利益」扱い。 何もしないと約30%の税金がかかる。
  2. 「圧縮記帳」を使えば、税金の支払いを将来に先送りできる(1年目の資金繰りを守れる)。
  3. 計上時期は「確定通知日」。 入金日基準だと計上漏れになるリスクがある。
  4. 消費税は「不課税」。 もらう時は消費税なし、払う時はあり。
  5. 税務処理は複雑。 顧問税理士と必ず連携する。

「補助金をもらうこと」がゴールではありません。

その資金を有効に使い、税金を正しくコントロールし、会社にお金を残すこと。ここまでできて初めて、補助金活用は成功と言えます。

特に「圧縮記帳」は、知っているか知らないかで数百万円単位のキャッシュフローが変わる重要な知識です。

もし、今の顧問税理士さんが補助金にあまり詳しくない場合や、ご自身で申告されている場合は、補助金の採択が決まったタイミングで、一度専門家のセカンドオピニオンを受けることを強くお勧めします。

「知らなかった」で損をしないために。

賢い会計処理で、御社の成長資金をガッチリ守り抜いてください。


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