はじめに:「なんとなく不安」を「明確な課題」に変えるだけで、採択率は劇的に上がる
「事業計画書の『経営課題』の欄、何を書けばいいのか分からない…」
「ウチの課題は『売上が下がっていること』だけど、それだけ書いてもダメな気がする…」
「解決策として『機械を買う』と書いたら、コンサルタントに『弱い』と言われた」
補助金・助成金の申請準備を進める中で、このような壁にぶつかり、パソコンの前で頭を抱えている経営者様(あなた)は非常に多いです。
日々の業務に追われていると、目の前のトラブル対応には強くても、「自社の根本的な課題は何か?」「それを解決するために、なぜこの投資が必要なのか?」を言語化する時間はなかなか取れません。
その結果、申請書には「とりあえず売上が欲しい」「機械が古いから買い替えたい」といった、「感想文」レベルの内容を書いてしまい、不採択になってしまうケースが後を絶ちません。
しかし、断言します。
補助金採択の勝負は、この「経営課題」の解像度で9割決まります。
補助金は、皆様から集めた税金を原資とする「投資」です。
「どこが悪いか分からないけど、とりあえず薬(お金)をください」という患者に対し、医者(審査員)は処方箋を出しません。
「検査の結果、ここが悪い(課題)と判明しました。だから、この治療薬(解決策)が必要です」という明確なロジックがあって初めて、審査員は納得してハンコを押すのです。
この記事では、数千件の申請書を見てきたプロの視点から、「審査員が納得せざるを得ない経営課題の書き方」と「課題と解決策を美しくつなげるロジック」を徹底解説します。
専門用語は極力使わず、明日から使えるフレームワークと具体的な例文を用意しました。
この記事を読み終える頃には、あなたの頭の中にあるモヤモヤとした悩みが、採択を勝ち取るための「強力な武器」へと変わっているはずです。
1. なぜ、あなたの「経営課題」は審査員に響かないのか?
書き方のテクニックに入る前に、まずは「不採択になる典型的なパターン」を知っておきましょう。敵(審査員の心理)を知ることが、勝利への第一歩です。
1-1. 「欲しいもの」ありきで書いている(手段の目的化)
これが最も多い失敗です。
「最新のオーブンが欲しい」という気持ちが先行してしまい、課題の欄にこう書いてしまうのです。
- × 悪い例: 「現在のオーブンが古くて使いにくいのが課題です。」
これでは、審査員はこう思います。
「それは単なる設備の老朽化ですよね? 修繕費で直せばいいのでは? なぜわざわざ補助金を使って新品を買う必要があるのですか?」
「設備がないこと」自体は経営課題ではありません。
設備がないことによって、「生産性が落ちている」「機会損失が起きている」という状態こそが課題なのです。
1-2. 課題が「抽象的」すぎて、深刻さが伝わらない
- × 悪い例: 「昨今の不況で売上が低迷しており、厳しい状況です。」
- × 悪い例: 「人手不足で困っています。」
これらは嘘ではないでしょうが、解像度が低すぎます。
「どのくらい売上が下がっているのか?」「どの工程で人手が足りないのか?」が見えません。
審査員は毎日何十件もの申請書を読んでいます。「不況で厳しい」というありきたりな言葉は、読み飛ばされてしまうのです。
1-3. 「外部環境」のせいにしすぎている
「コロナのせいで」「円安のせいで」「人口減少のせいで」
確かにこれらは大きな要因ですが、外部環境のせいにするだけでは、「じゃあ、どうしようもないですね」と思われてしまいます。
重要なのは、「厳しい外部環境の中で、御社は内部的にどう対応できていないのか(内部課題)」を掘り下げることです。
2. 採択率を3倍にする!「経営課題」を明確化する3つのステップ
では、どのように課題を掘り下げればよいのでしょうか。
プロが実践している、思考を整理するための「3ステップ・フレームワーク」を伝授します。
ステップ①:「事実(数字)」で現状を把握する
まずは、感情を排して「事実」を並べます。
「売上が下がった」ではなく、決算書や売上台帳を見て具体的な数字を出してください。
- 「昨対比で売上が15%ダウンした」
- 「原材料費が20%高騰し、粗利率が5%悪化した」
- 「注文を断っている件数が月間10件ある(機会損失)」
数字は世界共通言語です。数字が入るだけで、課題の「深刻度」が一瞬で伝わります。
ステップ②:「なぜ(Why)」を5回繰り返す
トヨタ式カイゼンでも有名ですが、表面的な事象の奥にある「真因(ボトルネック)」を探ります。
- 売上が下がった(現象)
- なぜ? → 来店客数が減ったから。
- なぜ? → 近隣に大型チェーン店ができて、価格競争で負けたから。
- なぜ? → ウチも安売りで対抗しようとして、疲弊しているから。
- なぜ? → 「安さ」以外の「独自の強み(高付加価値商品)」を作れていないから。
ここまで掘り下げて初めて、「高付加価値商品を作れていないこと」という真の経営課題が見えてきます。
ステップ③:SWOT分析で「機会」と「強み」を絡める
課題だけを書くと、「ダメな会社」に見えてしまいます。
補助金は「成長する会社」に出すものです。
そこで、「SWOT分析」を使って、ポジティブな要素を課題に組み込みます。
- 機会(Opportunity): 世の中のチャンス(例:健康志向の高まり、テイクアウト需要など)
- 強み(Strength): 自社の武器(例:熟練の技術、独自の仕入れルートなど)
【採択される課題の構文】
「市場では〇〇というニーズが高まっている(機会)。
当社にはそれに応えられる技術がある(強み)。
しかし、現在の設備では生産能力が足りず、そのチャンスを掴みきれていない(課題)。」
このように、「チャンスがあるのに、今のままでは掴めない!もどかしい!」という書き方をすると、審査員は「それは応援しなきゃ!」という気持ちになります。
3. その投資は本当に必要か?「解決策」への美しいつなげ方
課題が明確になったら、次は「解決策(補助事業)」です。
ここで重要なのは、「課題」と「解決策」がパズルのピースのようにカチッとハマっていることです。
3-1. 課題と解決策の「整合性」チェック
多くの申請書で、ここがズレています。
- 課題: 「若手社員の採用難で困っている」
- 解決策(投資): 「最新の営業車を買いたい」
審査員は思います。「車を買って、なんで採用が増えるの?」と。
因果関係が飛躍していると、不採択になります。
- 課題: 「若手社員の採用難(重労働が敬遠されている)」
- 解決策: 「自動搬送ロボットを導入し、重労働をゼロにする」
- 効果: 「女性や体力のない若手でも働ける環境になり、採用応募数が増える」
これなら筋が通っています。
「この解決策(投資)を実行すれば、先ほどの課題は100%解決します」と言い切れるロジックを作ってください。
3-2. 「なぜ、その機械でなければならないのか?」
補助金で導入する設備やシステムについて、「選定理由」を明確にします。
単に「カタログを見て良さそうだったから」では弱いです。
- 「課題である『生産スピード3倍』を実現できるのは、この機種だけだから」
- 「当社の既存システムと連携できるのは、A社のソフトだけだから」
- 「競合他社が持っていない機能がついているから」
このように、「これ以外の選択肢はない(必然性)」をアピールしてください。
4. 【業種別】劇的ビフォーアフター事例集
論より証拠です。
よくある「惜しい書き方」を、採択レベルの「ロジカルな書き方」にリライトしてみましょう。
ケースA:飲食店(カフェ)の場合
【Before:よくある書き方】
経営課題:
コロナの影響でお客さんが減って苦しいです。売上を戻すために、テイクアウトを始めたいですが、今の厨房は狭くて作業ができません。
解決策:
補助金で厨房を改装し、テイクアウト用の窓口を作ります。
「苦しいから助けて」というトーンになっており、成長性が感じられません。また、テイクアウトを始めれば本当に売れるのか?という根拠も不足しています。
【After:採択レベル】
経営課題:
当店は「自家製オーガニックスイーツ(強み)」が好評だが、近年の「中食需要の拡大(機会)」に伴い、自宅でも当店の味を楽しみたいという要望が月間50件以上寄せられている(事実)。
しかし、現在の厨房機器は店内提供のスペックしかなく、持ち帰り用の「急速冷凍」や「真空パック」に対応していないため、衛生面と品質維持の観点から販売をお断りしており、月間約30万円の機会損失が発生している(真の課題)。
解決策:
そこで、最新の「ショックフリーザー(急速冷凍機)」と「真空包装機」を導入する。
これにより、保存料を使わずに「お店の味」をそのままテイクアウト商品化することが可能になる。
店内飲食の売上に依存しない「第二の収益の柱(物販)」を構築し、売上を昨対比120%に引き上げる。
いかがでしょうか?
「機会損失」という課題に対し、「冷凍機導入」という解決策がハマり、売上アップの根拠も明確になりました。
ケースB:製造業(金属加工)の場合
【Before:よくある書き方】
経営課題:
マシニングセンタが導入から20年経ち、故障が多くなりました。修理費もかさむし、精度も出ないので、新しい機械に買い替えたいです。
解決策:
最新の5軸加工機を導入します。
これでは単なる「設備の更新(買い替え)」とみなされ、補助金の対象外になりやすいです。補助金は「現状維持」ではなく「新しい挑戦」に出るものだからです。
【After:採択レベル】
経営課題:
近年、取引先である自動車業界では「EV(電気自動車)化」が進み、部品の「軽量化・複雑形状化」へのニーズが急増している(機会)。
当社には熟練の職人がおり、手作業での複雑加工は可能だが(強み)、既存の3軸加工機では加工に時間がかかりすぎ、短納期の大量受注に対応できず、競合他社に案件を奪われている(真の課題)。
解決策:
そこで、最新の「5軸制御マシニングセンタ」を導入する。
これにより、従来は職人が手作業で段取り替えをしていた工程を自動化し、加工時間を「3分の1」に短縮する。
熟練職人のノウハウを最新設備で再現することで、EV部品の量産体制を確立し、新規取引先を3社獲得する。
これなら、「単なる買い替え」ではなく、「EV市場への参入」という前向きな投資計画になります。
5. 審査員は見ている!提出前の「一貫性」チェックリスト
書き上げた事業計画書を、以下のチェックリストで確認してください。
一つでも「NO」があると、そこから論理が崩れてしまいます。
- [ ] 課題は「数字」を使って具体的に書かれていますか?
- (例:「売上が下がった」→「売上が15%下がった」)
- [ ] 外部環境(機会・脅威)だけでなく、内部課題(自社の弱点)に触れていますか?
- [ ] 課題と解決策の因果関係は明確ですか?
- (「風が吹けば桶屋が儲かる」のような飛躍はありませんか?)
- [ ] 「なぜ今、やる必要があるのか?」という緊急性は伝わりますか?
- [ ] 導入する設備のスペックは、課題解決に十分ですか?
- (オーバースペックすぎたり、逆に足りなかったりしませんか?)
- [ ] 業界を知らない素人(家族など)が読んでも、意味が分かりますか?
まとめ:課題の明確化は、経営の「健康診断」である
今回は、事業計画書における「経営課題と解決策」の書き方について解説しました。
要点を振り返りましょう。
- 「欲しいもの」から書かず、「困っていること(ボトルネック)」から書く。
- 事実は「数字」で、真因は「なぜ」を5回繰り返して掘り下げる。
- SWOT分析で「機会」と「強み」を掛け合わせ、ポジティブな課題にする。
- 解決策は、課題を消し去るための「唯一の手段」として提示する。
- 「単なる買い替え」ではなく「成長への投資」に見えるストーリーを作る。
事業計画書を書くという作業は、単に補助金をもらうための事務手続きではありません。
自社の現状を直視し、数字と向き合い、未来の戦略を練る。
まさに「経営の健康診断」そのものです。
このプロセスを通じて明確になった「真の経営課題」は、補助金の採択・不採択に関わらず、御社の今後の経営にとって極めて重要な羅針盤となります。
最初は難しく感じるかもしれませんが、今回ご紹介したフレームワークを使えば、必ず霧が晴れるように課題が見えてくるはずです。
ぜひ、あなたの頭の中にある「なんとなくの不安」を「明確な戦略」へと変換し、審査員を唸らせる事業計画書を完成させてください。
そして、補助金という翼を手に入れ、御社の事業が大きく飛躍することを心より応援しています。
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