はじめに:「文章力」は不要です。必要なのは「設計図」です
「補助金に興味はあるけれど、事業計画書を書くのが難しそうで…」
「文章を書くのは苦手だ。作文なんて学生時代以来やっていない」
補助金の申請を検討されている経営者様(あなた)から、このようなため息交じりの相談をよくいただきます。
その気持ち、痛いほどよく分かります。
日々の業務で忙しい中、慣れないパソコンに向かい、数十ページにも及ぶ書類を作成するのは、想像を絶するストレスでしょう。「もし苦労して書いて、不採択になったら…」と考えると、筆が止まってしまうのも無理はありません。
しかし、プロとして断言します。
補助金の事業計画書に、小説家のような「文章力」や「文才」は一切必要ありません。
審査員が求めているのは、感動的な物語ではなく、「この事業にお金を出せば、確実に成果が出る」という論理的な設計図です。
そこには、明確な「勝ちパターン」と「守るべきルール」が存在します。このルールさえ押さえておけば、文章が苦手な方でも、審査員を納得させる計画書を作ることは十分に可能なのです。
この記事では、数多くの採択案件に関わってきた私が、「採択率を劇的に上げる7つの書き方のコツ」を徹底解説します。
精神論ではありません。明日からすぐに使える実践的なテクニックだけを厳選しました。
この記事を読み終える頃には、真っ白だったWord画面に向かうのが少し楽しみになっているはずです。それでは、採択への扉を開けましょう。
コツ1:【ストーリー】「過去・現在・未来」を一本の線で繋ぐ
事業計画書で最も重要なのは「一貫性(ストーリー)」です。
多くの不採択事例に見られるのが、話が飛び飛びになっているケースです。
- 過去: うちはこんな会社でした。
- 現在: 今、こんなことで困っています。
- 未来: だから、この機械を買います!
これだと、審査員は「えっ、なんでその機械なの? 急すぎない?」と置いてけぼりになります。
採択される計画書は、以下のように「過去・現在・未来」が論理的に繋がっています。
採択されるストーリー構成
- 【過去・強み】 当社は〇〇という技術(強み)で、長年顧客に選ばれてきた。
- 【現在・課題】 しかし今、市場環境の変化で〇〇という課題に直面している。
- 【解決策・投資】 その課題を解決し、強みを活かすためには、〇〇という設備投資が不可欠だ。
- 【未来・効果】 この投資により、売上が〇〇%アップし、地域経済にも貢献できる。
この流れが一本の線で繋がっているかを確認してください。
「なぜ、その投資が必要なのか?」という問いに対し、「過去の強みを活かし、未来の課題を解決するためだ」と即答できるロジックが必要です。
コツ2:【見やすさ】審査員は「疲れている」と思って書く
残酷な現実をお伝えします。
審査員(中小企業診断士など)は、短期間に数百件もの事業計画書を読みます。
彼らも人間です。文字だけでびっしり埋め尽くされた、辞書のような書類を見た瞬間、無意識に「ウッ…読みたくない」と感じてしまいます。
「読まれない計画書」は「採択されない計画書」です。
パッと見た瞬間に内容が入ってくるよう、ビジュアル面に配慮しましょう。
すぐできる「見やすさ」アップ術
- 見出し(タイトル)をつける:長文をダラダラ書かず、「1. 自社の強み」「2. ターゲット顧客」のように、見出しで区切る。
- 箇条書きを使う:「理由は3つあります」と書き出し、・(中黒)を使って列挙する。
- 太字(ボールド)を使う:審査員が飛ばし読みしても理解できるよう、一番伝えたいキーワードを太字にする。
- 余白を恐れない:ギチギチに詰め込むより、適度な行間がある方が好印象です。
コツ3:【客観性】「なぜ今なのか?」を外部データで証明する
「この商品は絶対に売れます!なぜなら私が自信があるからです!」
これは熱意ですが、ビジネスプランではありません。
審査員は「あなたの思い込みではないか?」と疑ってかかります。
その疑いを晴らすために必要なのが、「客観的なデータ(証拠)」です。
「なぜ今、その事業をやる必要があるのか」を、外部の数字を使って説明してください。
使えるデータの例
- 官公庁の統計データ: 総務省や経済産業省が出している市場調査レポート。
- 業界団体のニュース: 「〇〇市場は昨年比120%で成長中」といった記事。
- 顧客アンケート: 「お客様の8割から、こんな商品が欲しいと言われている」という自社データ。
「市場が伸びている(データあり)。だから、今ここに投資すれば勝てる」
このロジックが、審査員に「なるほど、勝算があるな」と思わせるのです。
コツ4:【具体性】数字は「因数分解」して書く
コツ3とも関連しますが、未来の計画数値(売上目標など)を書く際、単なる「どんぶり勘定」はNGです。
悪い例(NG)
「新設備導入により、3年後には売上が1,000万円アップする見込みです。」
これでは、「根拠は?」と突っ込まれます。
良い例(OK)
「新設備導入により、生産能力が現在の1.5倍になります。
- 客単価: 2,000円(変更なし)
- 販売数: 現在の月500個から、月900個へ増加(営業強化により達成可能)
- 計算式: 2,000円 ×(900個-500個)× 12ヶ月 = 年間960万円の増収
以上の根拠により、約1,000万円の売上アップを見込みます。」
このように、「単価 × 数量 × 頻度」などに因数分解して計算式を見せることで、数字にリアリティ(説得力)が生まれます。
コツ5:【差別化】SWOT分析で「強み」を尖らせる
補助金は「弱者救済」ではなく「強者応援」の側面が強いです。
「他社と同じことをやります」では採択されません。「御社にしかできないこと(差別化)」が必要です。
ここで役立つのが、定番のフレームワーク「SWOT(スウォット)分析」です。
- Strengths(強み): 自社の得意なこと
- Weaknesses(弱み): 自社の苦手なこと
- Opportunities(機会): 市場のチャンス
- Threats(脅威): ライバルの動き
特に重要なのが「強み × 機会」の掛け合わせです。
「世の中では今、こういうニーズが増えている(機会)。そして当社には、それに応えられる技術がある(強み)。だからこの事業は成功する」
この「強み」の部分を、徹底的に言語化してください。
「スタッフが親切」といった抽象的なものではなく、「業界歴20年の職人がいる」「地域唯一の特約店である」といった、他社が簡単にはマネできない強みを書くのがコツです。
コツ6:【具体化】写真・図解・イメージ図を入れる
「百聞は一見に如かず」は、補助金申請でも真理です。
文章で「スタイリッシュで高機能な新型機械」と100文字書くよりも、その機械の写真を1枚ポンと貼るだけで、一瞬で伝わります。
入れるべきビジュアル要素
- 導入予定の機械・設備・システムパンフレットの切り抜き
- 現状の課題がわかる現場の写真(狭くて作業しにくい工場の様子など)
- 新商品のイメージ図や試作品の写真
- 改装後の店舗レイアウト図
- 売上計画のグラフ(右肩上がりの棒グラフなど)
文字ばかりの書類の中で、写真や図表は「砂漠のオアシス」です。
審査員の目を休ませつつ、理解度を深めるための最強のツールとして活用しましょう。
(※Wordへの画像の貼り付け機能などを活用してください)
コツ7:【整合性】「投資内容」と「課題」は合っているか?
最後のコツは、全体の見直し(チェック)です。
「その経費(買い物)は、本当に課題解決に必要なのか?」
という整合性を確認してください。
よくある不整合の例(NG)
- 課題: 「若手社員の採用難で困っている」
- 投資内容: 「最新の営業用車両を買いたい」
これを見た審査員は思います。「車を買って、なんで採用が増えるの?」と。
因果関係が不明確だと、単なる「欲しいものリスト」に見えてしまいます。
- 課題: 「若手社員の採用難」
- 解決策: 「重労働を自動化するロボットを導入し、女性や若手でも働きやすい環境を作る」
- 投資内容: 「自動搬送ロボットの購入」
これなら筋が通っています。
「課題」→「解決策」→「購入品」のロジックが一直線に繋がっているか、最後に必ず確認してください。
番外編:最強の裏ワザは「第三者に見てもらうこと」
7つのコツをお伝えしましたが、最後に一つだけ、裏ワザをお伝えします。
書き上げた事業計画書を、「その業界のことを全く知らない家族や知人」に読んでもらってください。
そして、「何をする事業か分かった?」「儲かりそうだと感じた?」と聞いてみてください。
もし「ここがよく意味が分からない」「専門用語が難しすぎる」と言われたら、そこは修正ポイントです。
審査員は中小企業診断士などのプロですが、あなたの業界の専門家ではありません。
「素人が読んでもスッと理解できる」レベルの分かりやすさこそが、採択される計画書の条件です。
まとめ:事業計画書は、未来への「予約チケット」
今回は、補助金採択率を上げるための「書き方」について解説しました。
要点を振り返りましょう。
- ストーリー: 過去・現在・未来を一貫させる。
- 見やすさ: 見出し、太字、余白で読みやすく。
- 客観性: 外部データで「なぜ今か」を証明する。
- 具体性: 数字は計算式(因数分解)で見せる。
- 差別化: SWOT分析で「強み」を尖らせる。
- 具体化: 写真や図解をふんだんに使う。
- 整合性: 課題と買い物のつじつまを合わせる。
事業計画書を書くことは、単に補助金をもらうための「事務作業」ではありません。
御社の強みを見つめ直し、課題を整理し、これから進むべき道を明確にする「未来への予約チケット」を作る作業です。
たとえ文章が下手でも、この7つのコツを守り、あなたの「事業に対する熱い想い」と「冷静な計算」が込められていれば、必ず審査員に響きます。
最初は大変に感じるかもしれませんが、書き上げた時、御社の経営ビジョンは以前よりずっとクリアになっているはずです。
ぜひ、この黄金法則を使って、補助金という大きなチャンスを掴み取ってください。
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