「今期は赤字決算になってしまった……。これでは補助金の申請なんて無理だろうか」
「資金繰りが厳しい今だからこそ補助金が必要なのに、赤字だから審査に通らないのでは?」
もしあなたが今、このような不安を抱えているのなら、少しだけ肩の荷を下ろしてください。
結論から申し上げます。「赤字決算だからといって、補助金申請を諦める必要は全くありません」。
むしろ、補助金の種類によっては、業績が厳しい企業こそを救済し、V字回復を支援するために設計されているものさえ存在します。銀行融資と補助金は、その「目的」も「審査基準」も大きく異なるからです。
しかし、ただ漫然と申請書を出すだけで通るほど甘くもありません。赤字の状態から採択を勝ち取るためには、**「なぜ赤字なのか」を説明し、「どうやって黒字化するのか」というストーリー(事業計画)**を、審査員が納得する形で提示する必要があります。
この記事では、赤字決算が補助金審査に与える本当の影響と、マイナス評価を覆して採択されるための具体的な戦略について、分かりやすく解説します。
1. そもそも「赤字決算」だと補助金は受け取れないのか?
多くの経営者様が誤解されている最大のポイント。それは「銀行融資(デット)」と「補助金(エクイティに近い性質)」を混同してしまっていることにあります。
まずは、この誤解を解くところから始めましょう。
銀行融資と補助金審査の決定的な違い
銀行から融資を受ける際、最も重視されるのは「返済能力」です。「貸したお金を利子をつけて返せるか?」が問われるため、直近が赤字であることは大きなマイナス要因となります。
一方で、国や自治体が出す「補助金」の目的は何でしょうか?
それは、「企業の成長を支援し、経済全体を活性化させること」、あるいは「倒産を防ぎ、雇用を守ること」です。
- 銀行の視点: 「過去」の実績と「現在」の担保力を重視(お金を返せるか?)
- 補助金の視点: 「未来」の可能性と「事業計画」の実現性を重視(このお金で成長できるか?)
つまり、補助金の審査員が見ているのは、「今の決算書が赤いか黒いか」だけではありません。「この補助金を使って新しい事業を始めれば、この会社は将来的に利益を生み出し、税金を納められるようになるか?」という未来への投資価値を見ているのです。
公募要領に「赤字不可」とは書かれていない
ほとんどの補助金の「公募要領(ルールブック)」を確認してみてください。「赤字決算の企業は申請できません」という一文は、基本的には存在しません(※一部の特殊な金融系助成金などを除く)。
実際、過去の採択事例を見ても、直近が赤字決算の個人事業主や中小企業が採択されたケースは山ほどあります。
もちろん、赤字であることが「プラス評価」になるわけではありませんが、「足切り条件(門前払い)」ではないという事実を、まずは強く認識してください。
2. 赤字よりも怖い?審査で本当にチェックされる「財務の安全性」
「赤字でも申請できる」とお伝えしましたが、一つだけ注意しなければならないラインがあります。それは単なる赤字(PL上の損失)ではなく、「債務超過」の状態になっているかどうかです。
「赤字」と「債務超過」の違い
ここを混同すると危険ですので、簡単におさらいしましょう。
- 赤字決算: 1年間の売上よりも経費が多く、利益が出ていない状態(損益計算書の問題)。
- 債務超過: 会社の持っている全財産を売っても、借金を返せない状態(貸借対照表の問題)。つまり、純資産がマイナスになっている状態です。
債務超過の場合のリスク
単年度の赤字であれば、過去の蓄積(内部留保)があれば会社は潰れません。しかし、債務超過の状態が続くと「倒産リスクが高い」と判断されます。
補助金は後払い(事業完了後に支給)が基本です。「補助金を交付する前に会社が倒産してしまった」となっては、国としても税金の無駄遣いになってしまいます。そのため、債務超過の状態にある企業は、審査の目が厳しくなるのは事実です。
しかし、債務超過であっても申請可能な補助金はあります(例:事業再構築補助金など)。重要なのは、その状態を隠すことではなく、「補助事業を通じて、いつまでに、どのように債務超過を解消するか」という計画を示すことです。
3. 赤字決算の企業が審査を突破するための「3つの戦略」
では、実際に赤字決算の状態で申請する場合、どのような点に気をつけて事業計画書を作成すればよいのでしょうか。数多くの事例を見てきた私の経験から、採択率を高める3つのポイントをご紹介します。
戦略①:赤字の「原因」を明確かつ正直に分析する
審査員はプロです。決算書を見れば状況は分かります。ここで一番やってはいけないのは、「赤字の理由に触れず、バラ色の未来だけを語る」ことです。これでは信用されません。
まずは、なぜ赤字になったのかを論理的に説明しましょう。
- 一過性の赤字なのか?
- (例)大型設備投資を行ったため償却費が増えた。
- (例)たまたま大口顧客との契約が終了したタイミングだった。
- (例)原油高・円安による一時的な仕入れコスト高騰。
- 構造的な赤字なのか?
- (例)市場自体が縮小しており、売上が年々下がっている。
「一過性の理由(投資や外部要因)」であれば、それは回復可能です。「構造的な理由」であれば、「だからこそ、今回の補助金で新しい事業を始めて構造を変える必要があるのです」という、強力な申請動機に繋げることができます。
「ピンチをチャンスに変えるための申請である」というストーリーを構築してください。
戦略②:説得力のある「V字回復ストーリー」を描く
赤字企業に求められるのは、「現状維持」ではなく「変革」です。
補助金を活用することで、数値がどのように改善するのかを、具体的な根拠(エビデンス)とともに示します。
- 売上の根拠: 「なんとなく増える」ではなく、「単価〇〇円の商品を、Web広告で〇〇人にリーチさせ、コンバージョン率1%で販売する」といった具体的な計算式。
- コスト削減の根拠: 「ITツール導入により、事務作業時間を月50時間削減し、その分を営業活動に充てることで人件費対効果を高める」など。
「この補助金さえあれば、我が社はこれだけ劇的に生まれ変わる!」というシナリオに、審査員が「なるほど、これなら実現できそうだ」と納得できる数字を添えるのです。
戦略③:資金繰り表(キャッシュフロー)の提示
先ほどお伝えした通り、補助金は「後払い」です。事業を行うための資金は、一時的に自社で立て替える必要があります。
審査員が懸念するのは、「採択を出しても、この会社、お金が続かなくて事業を実施できないんじゃないか?」という点です。
この不安を払拭するために、たとえ提出必須書類でなくても、精緻な資金繰り表を添付することをお勧めします。
- 「メインバンクからのつなぎ融資の確約が取れている」
- 「社長個人の資産から借入を行う準備がある」
このように、「事業期間中の資金はショートしない」という証拠を見せることで、審査員の安心感は格段に上がります。
4. 赤字企業や業況が厳しい事業者におすすめの補助金
補助金にはそれぞれ「性格」があります。ここでは、比較的赤字企業でもチャレンジしやすく、むしろ再起を図る企業を応援してくれる補助金をピックアップします。
① 事業再構築補助金
コロナ禍や経済環境の変化で売上が落ち込んだ事業者が、「新分野展開」「業態転換」「事業・業種転換」などに思い切って挑戦する場合に支援される大型の補助金です。
- おすすめ理由: まさに「今の事業が厳しいから、新しいことをする」ための補助金だからです。業況が厳しい事業者向けの特別枠が設けられることも多く、赤字企業にとっては最大のチャンスと言えます。
② ものづくり補助金
革新的な製品・サービスの開発や、生産プロセス改善のための設備投資を支援する補助金です。
- おすすめ理由: 「大幅な賃上げ」に取り組むことで加点される枠組みなどがあります。赤字であっても、「高付加価値な製品を作るための投資」というロジックが立てば採択の可能性があります。
③ 小規模事業者持続化補助金
小規模事業者が行う販路開拓(チラシ、Webサイト作成、店舗改装など)を支援する使い勝手の良い補助金です。
- おすすめ理由: 金額規模は小さめ(通常枠50万円など)ですが、その分ハードルも比較的低めです。「まずは小さな成功体験を作って黒字化の足がかりにしたい」という場合に最適です。
5. 絶対にやってはいけないNG行動
審査に通りたい一心でやってしまいがちな、しかし致命的なミスについてお伝えします。
嘘の数字を書く(粉飾)
これは論外ですが、少しでも良く見せようとして、確定申告書や決算書の数字をいじってはいけません。提出書類と整合性が取れなければ一発で不採択ですし、最悪の場合、不正申請としてペナルティを受けます。ありのままの数字(赤字)を出し、計画書(未来)で挽回してください。
税金や社会保険料の未納・滞納
これは「赤字決算」以前の問題です。補助金の原資は税金です。「税金を払っていない企業に、税金をあげる」ことは絶対にありません。
もし未納がある場合は、申請前に必ず納付するか、分納の相談をして「完納」の状態、あるいは正式な猶予手続きを行っておく必要があります。
6. まとめ:赤字は「恥」ではない。再起への「挑戦権」である
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
「赤字決算だから補助金は無理だ」という考えが、単なる思い込みであることに気づいていただけたでしょうか。
重要なポイントを振り返ります。
- 補助金は「過去」ではなく「未来」への投資。赤字でも申請可能。
- 赤字の原因を分析し、それを解決するための「前向きな事業計画」を作る。
- 資金繰りの安全性を証明し、事業遂行能力を示す。
経営をしていれば、山もあり谷もあります。赤字決算は、経営者にとって苦しい時期でしょう。しかし、国は「一度の失敗で退場」ではなく、「挑戦する者への再起」を望んでいます。
補助金は、あなたの会社が再び輝くための「燃料」になり得ます。
専門家の力を借りるという選択肢
とはいえ、赤字の状態から説得力のある事業計画書(ストーリー)を描くのは、黒字企業の申請以上に高度なテクニックが必要です。「今の自社の状況で、どの補助金が使えるのか?」「どう書けば審査員の心に響くのか?」と悩まれる方も多いでしょう。
そんな時は、補助金申請のプロ(認定支援機関やコンサルタント)に相談するのも一つの賢い経営判断です。
私も含め、彼らは「通るためのロジック」を知り尽くしています。
一人で悩んでチャンスを逃してしまう前に、まずは専門家の無料相談などを活用し、あなたの会社の「勝ち筋」を見つけてみてはいかがでしょうか。
今の苦境を、補助金という制度を使って、大きな飛躍のきっかけに変えていきましょう。あなたには、その権利も可能性も十分にあるのですから。

