はじめに:その「1点」が、天国と地獄を分けます
「事業計画書は完璧に書けた。これなら通るはずだ」
そう思って申請したのに、結果は不採択……。
一方で、
「計画書はシンプルだったけれど、なぜか一発で採択された」
という経営者様もいらっしゃいます。
この差は一体どこにあるのでしょうか?
多くの場合、その正体は「加点(かてん)」です。
補助金の審査は、学校のテストと同じです。
事業計画書という「本試験(100点満点)」の点数に加え、特定の条件を満たすことで「ボーナスポイント(加点)」が上乗せされます。
人気のある補助金(ものづくり補助金、事業再構築補助金、IT導入補助金など)は競争率が高く、合格ライン付近には多くの企業がひしめき合っています。
ここで、たった数点の「加点」があるかないか。
これが、採択(合格)と不採択(不合格)を分ける決定的な差になります。
「加点が大事なのは分かった。でも、何を提出すればいいの?」
「賃上げ表明って、口約束じゃダメなの?」
そんな疑問を持つあなた(御社)へ。
この記事では、補助金申請のプロが、「どの加点が取りやすく、それを証明するにはどんな書類が必要なのか」を徹底解説します。
専門用語は極力使わず、役所のサイトを見てもよく分からない「書類の準備方法」まで踏み込んで書きました。
この記事を読めば、御社は「隠しアイテム」を持った状態で、有利に審査のステージに立つことができます。
1. そもそも「加点」とは? 審査の裏側を知ろう
具体的な書類の話に入る前に、まず「加点」の仕組みを理解しておきましょう。
1-1. 審査員は「加点項目リスト」を見ている
補助金の審査員の手元には、採点シートがあります。
そこには「技術面の評価」「事業化面の評価」といった項目の他に、「政策点(加点項目)」という欄があります。
- 賃上げを実施するか? → YESなら +〇点
- パートナーシップ構築宣言をしているか? → YESなら +〇点
- 地域の災害対策に協力しているか? → YESなら +〇点
審査員は、あなたが提出した「証拠書類」を確認し、要件を満たしていれば機械的に点数を加算します。
つまり、事業計画書の中身(文章力)とは関係なく、「書類さえ揃えれば確実に点が取れる」のが加点項目の最大の特徴です。これを取らない手はありません。
1-2. 「口約束」では1点ももらえない
当たり前ですが、「やります!」と宣言するだけでは点数はもらえません。
「すでにやっていることの証明書」や「やることの誓約書」を、申請時に添付ファイルとして提出する必要があります。
もし、チェックボックスに「該当する」と入れておきながら、添付書類を忘れたり、書類に不備があったりした場合、その加点は「無効(0点)」になります。それだけでなく、「確認不足の会社」というネガティブな印象を与えてしまうリスクもあります。
2. これだけは取っておきたい!「3大・鉄板加点」とその証明方法
補助金の種類によって加点項目は異なりますが、多くの経済産業省系補助金(ものづくり・事業再構築・IT導入など)で共通して採用されている「取りやすく、効果が高い加点」が3つあります。
まずはこの3つを攻略しましょう。
【鉄板加点①】賃上げ加点(給与支給総額・最低賃金の引き上げ)
これは現在の国の政策の「一丁目一番地」です。
「従業員の給料を上げるなら、補助金審査で優遇しますよ」というものです。配点も非常に高い傾向にあります。
どうやって証明する?
ここでは「過去の実績」ではなく、「未来の約束(計画)」を提出します。
- 提出書類:「賃金引き上げ計画の誓約書(表明書)」
- 多くの補助金では、指定の様式(WordやExcel)が用意されています。
- そこに「従業員への給与支給総額を年率1.5%以上上げます」「事業場内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上にします」といった数値を記入し、代表者印を押します。
- 提出書類:「従業員への表明を証する書類」
- 作った計画を、社長の引き出しにしまっておくだけではダメです。「従業員に公表しました」という証拠が必要です。
- 具体的には、従業員代表(様式に署名をもらう)に対して説明している議事録や、全従業員にメールで通知した画面キャプチャなどを求められる場合があります(※制度によります)。
- 裏付け資料:「法人事業概況説明書」や「賃金台帳」
- 「今の給料」がいくらなのかを確認するため、直近の決算書に含まれる概況説明書(人件費が書いてあるページ)や、現在の賃金台帳の提出が必要です。
【注意!】未達成時のペナルティ
これは「約束」です。補助金をもらった後、もし賃上げを実行しなかった場合、「補助金の返還」を求められる厳しいルールがあります。
「加点が欲しいから」といって、実現不可能な賃上げを約束するのは絶対にやめてください。経営が破綻します。
【鉄板加点②】パートナーシップ構築宣言
これは中小企業経営者様にとって、「最もコスパが良い(手間がかからず効果が高い)」加点です。
大企業や取引先との共存共栄を目指すことを、専用のポータルサイトで宣言するものです。
どうやって証明する?
すべてWeb上で完結します。
- 手順: 「パートナーシップ構築宣言」のポータルサイトにアクセスし、自社の宣言内容を入力・登録します。
- 提出書類:「登録完了後にダウンロードできるPDF(写し)」
- 登録が承認されると、サイト上で自社の宣言が公開され、PDFがダウンロードできるようになります。
- このPDFを、補助金申請システム(Jグランツなど)にアップロードします。
ポイント
- 費用: 無料です。
- 所要時間: 早ければ数時間〜数日で登録完了します。
- 注意点: 申請締め切りの「前日」までに登録が完了していないと無効になるケースがあります。余裕を持って登録してください。
【鉄板加点③】事業継続力強化計画(ジギョケイゾク)
自然災害(地震・台風)や感染症などが起きた際に、どうやって事業を続けるか、または復旧させるかをまとめた計画(BCPの一種)を、国に認定してもらう制度です。
どうやって証明する?
これも経済産業省(各地域の経済産業局)への申請が必要です。
- 手順: 専用の申請サイトから、防災計画などを入力して申請します。
- 提出書類:「認定書(認定通知書)」の写し
- 審査に合格すると、経済産業大臣名の入った認定書が届きます(現在は電子データの場合が多いです)。
- この認定書を添付します。
ポイント
- 費用: 無料(専門家に作成支援を頼むと有料の場合あり)。
- 所要時間: 申請から認定まで「約45日」かかります。
- 注意点: 締め切り直前に慌てて申請しても、認定書が間に合いません。「申請中」の受領印があればOKの補助金もありますが、「認定済み」が条件の場合が多いので、早めの着手が必要です。
3. ケース別・その他の有効な加点リスト
上記3つ以外にも、御社の状況によっては取れる加点があります。
A. 経営革新計画(けいえいかくしんけいかく)
- 内容: 新事業活動に取り組み、経営の相当程度の向上を図る計画を都道府県知事が承認するもの。
- 証明書類: 「経営革新計画の承認書」
- 難易度: 高い。しっかりとした事業計画書を作り、県庁の審査を通す必要があります。数ヶ月かかります。
B. 健康経営優良法人(けんこうけいえいゆうりょうほうじん)
- 内容: 従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践している法人を認定するもの。
- 証明書類: 「健康経営優良法人認定証」
- 難易度: 中〜高。定期検診の受診率や、健康づくりの取り組み実績が必要です。年に1回しか申請時期がないため、タイミングが重要です。
C. SECURITY ACTION(セキュリティアクション)
- 内容: 情報セキュリティ対策に取り組むことを自己宣言するもの(IT導入補助金などで有効)。
- 証明書類: 「宣言申告後に届くロゴマークやメールの写し」
- 難易度: 低(★一つ星、★★二つ星があります)。Webですぐに宣言可能です。
4. 加点証明でやってはいけない「4つのミス」
せっかく準備したのに、書類の不備で加点が無効になるケースが後を絶ちません。
提出ボタンを押す前に、以下の4点を必ずチェックしてください。
ミス①:有効期限が切れている
「事業継続力強化計画」や「経営革新計画」には、認定の有効期限があります。
申請日時点で有効期間内でなければ、ただの紙切れです。
更新手続きを忘れていないか確認してください。
ミス②:会社名・住所が違う
認定を取った後に、本社移転や商号変更をしていませんか?
「認定書の住所」と「現在の申請住所」が異なると、同一法人とみなされないリスクがあります。
変更届を出して書き換えてもらうか、変更の経緯がわかる「履歴事項全部証明書(登記簿)」をセットで添付する必要があります。
ミス③:添付ファイルの画質が悪い(読めない)
紙の認定書をスキャナーではなく、スマホのカメラで撮影した場合に起こります。
文字がぼやけていたり、照明が反射して認定番号が読めなかったりすると、審査員は確認できません。
必ずスキャナーでPDF化し、拡大しても文字が読めるか確認してください。
ミス④:申請名義が違う(個人事業主→法人成りの場合)
「個人事業主時代に取った認定」を、「法人成りした後の会社」でそのまま使おうとするケースです。
原則として、名義変更の手続き(承継手続き)が必要です。そのままでは使えないことが多いので注意してください。
5. どの加点を狙うべき?プロが教える「戦略的選択」
「取れる加点は全部取ったほうがいいですか?」
よく聞かれますが、答えは「YESですが、無理は禁物」です。
優先順位の考え方
- 「無料・即日・リスクなし」のものは全部やる。
- パートナーシップ構築宣言
- SECURITY ACTION(IT系の場合)これらはやらない理由がありません。
- 「賃上げ」は経営判断として慎重に。
- 加点配点は高いですが、一度上げたら下げられません。固定費増のリスクを計算し、事業計画の収益が見合うならGOです。
- 「時間がかかるもの」は次回の申請用と割り切る。
- 締め切りまであと2週間しかないのに、今から「経営革新計画(審査2ヶ月)」を取ろうとしても無理です。
- 今回は諦めて、次回の公募に向けて準備を始めるのが賢明です。
6. まとめ:加点は「熱意」の証明書
今回は、補助金申請における「加点」とその「証明方法」について解説しました。
要点を振り返りましょう。
- 加点は「ボーナスポイント」。 ボーダーライン上の戦いでは決定打になる。
- 「口約束」は無効。 必ず公的な「認定書」や「誓約書」を添付する。
- まずは「パートナーシップ構築宣言」など、即効性のあるものから取る。
- 「賃上げ」は強力だが、未達成時の返還リスクを考慮する。
- 有効期限や名義の一致など、書類の形式不備に注意する。
最後に、精神論になりますが、加点を多く集めている企業は審査員にこう映ります。
「この会社は、国の政策を理解し、真面目に経営に取り組んでいる優良企業だ」
加点の証明書類を集める作業は、面倒かもしれません。
しかし、その一枚一枚の書類が、審査員に対する「私たちは本気です」というメッセージになります。
「あと1点足りなくて落ちた…」
そんな悔しい思いをしないために。
今すぐできることから着手し、盤石の体制で申請に挑んでください。
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