はじめに:「神様じゃないんだから、5年後のことなんて分からない」…それが本音ですよね
「事業計画書の最後にある『収益計画表』、ここを埋めるのが一番憂鬱だ…」
「来月の売上だって読めないのに、3年後、5年後の数字なんて書けるわけがない」
「適当に書いて、後で達成できなかったら怒られるんじゃないか?」
補助金申請のサポートをしていると、多くの経営者様(あなた)から、このような深い溜め息交じりのご相談をいただきます。
そのお気持ち、痛いほどよく分かります。
変化の激しい現代において、長期的な未来を正確に予測することなど、誰にもできません。
それなのに、補助金の申請書には「3年後〜5年後の売上・利益・人件費」を1円単位で記入する欄があります。
ここで手が止まってしまい、申請そのものを諦めそうになる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、プロとして断言します。
審査員は、あなたが「予言者」であることを求めているのではありません。
彼らが求めているのは、未来を的中させることではなく、「その数字に至るまでの『計算のロジック(根拠)』がしっかりしているか」という一点のみです。
「気合いで売上を倍にします!」という精神論ではなく、
「Aという商品を、Bという単価で、C個売るから、売上はD円になります」という「因数分解」ができているかどうか。
これさえできていれば、たとえ予測値であっても、それは「実現可能性の高い計画」として高く評価されます。
この記事では、多くの経営者が苦手とする「数値計画」について、審査員が納得せざるを得ない「鉄壁のロジック構築術」を徹底解説します。
専門用語は極力使わず、誰でも使える計算式とフレームワークを用意しました。
この記事を読み終える頃には、真っ白だったエクセルのセルが、あなたの事業の未来を照らす「希望の数字」で埋まっているはずです。
1. なぜ数値計画が重要なのか?言葉だけの「頑張ります」は信用されない
書き方のテクニックに入る前に、なぜ審査員がここまで数字にこだわるのか、その理由を知っておきましょう。
1-1. 数字は「文章の裏付け(証拠)」である
事業計画書の「本文(文章)」で、あなたはこう書いたはずです。
「この機械を導入すれば、生産性が上がり、売上が伸びます!」
これは素晴らしい主張ですが、審査員からすればまだ「あなたの主観(思い込み)」に過ぎません。
この主観を「客観的な事実」に変えるのが、数値計画です。
- 文章: 「すごく売れます」
- 数字: 「現在月間100個の生産能力が、新設備で150個になり、完売しているバックオーダー50個分に対応できるため、月商が50万円アップします」
このように、文章と数字がセットになって初めて、計画書は「説得力」を持ちます。
逆に言えば、どんなに文章が立派でも、数値計画が適当(どんぶり勘定)だと、「口先だけの計画」とみなされて不採択になります。
1-2. 「付加価値額」の要件をクリアしているか?
多くの経済産業省系補助金(ものづくり補助金、事業再構築補助金など)には、明確な「数値要件」があります。
代表的なのが「付加価値額(ふかかちがく)を年率3%以上向上させること」というルールです。
- 付加価値額 = 営業利益 + 人件費 + 減価償却費
この計算式で算出した数字が、毎年3%ずつ伸びていく計画になっていなければ、その時点で「要件不備(足切り)」となります。
つまり、数値計画作りは「採択されるための最低ライン」をクリアする作業でもあるのです。
2. 鉛筆を舐める前に!数字を作る「3ステップ・フレームワーク」
いきなりエクセルに入力してはいけません。
まずは手元のメモ帳で、以下の3ステップに沿って数字の「骨組み」を作りましょう。
ステップ①:【現状】の数字を正確に把握する
すべての出発点は「今」です。直近の決算書や試算表を用意してください。
- 現在の売上高はいくらか?
- 現在の原価率は何%か?
- 現在の客単価、客数は?
「だいたい」ではなく、正確な数字を書き出します。これがリアリティの土台になります。
ステップ②:【変化】のインパクトを計算する
今回の補助金で導入する設備やシステムが、どの数字に、どれくらいの影響を与えるかを計算します。ここが一番の肝です。
- 生産性: 手作業が自動化されて、作るスピードが「2倍」になる。
- 集客: 新しい看板やWeb広告で、来店客数が「1.2倍」になる。
- 単価: 新メニュー開発で、客単価が「500円」アップする。
「なんとなく売上が上がる」ではなく、「どの変数が変わるのか」を特定してください。
ステップ③:【未来】の数字を算出する
「現状」×「変化」=「未来」です。
ここまできて初めて、エクセルに入力します。
3. 審査員を唸らせる「積算根拠(せきさんこんきょ)」の作り方
数値計画で最も評価されるのは、表の中の数字そのものではなく、その数字を導き出した「計算式(積算根拠)」です。
多くの申請書には「積算根拠」を記述する欄があります(または別紙で添付します)。ここの書き方一つで、採択率が激変します。
魔法のテクニック:「因数分解」を使え!
売上を「売上」という一つの塊として捉えてはいけません。
必ず、以下の公式のように分解してください。
- 【小売・飲食・サービス業の場合】
- 売上 = 客単価 × 客数(席数 × 回転率) × 営業日数
- 【製造業・建設業の場合】
- 売上 = 製品単価 × 製造数量(時間あたり生産量 × 稼働時間)
- 【BtoB・受託ビジネスの場合】
- 売上 = 案件単価 × 受注件数(リード数 × 成約率)
良い積算根拠の例
ただ「売上が1,000万円増えます」と書くのではなく、以下のように書きます。
【売上増加の根拠】
本事業(新型オーブン導入)により、これまで製造が追いつかず夕方には完売していた「プレミアム食パン(1斤800円)」の増産が可能になります。
- 単価: 800円(変更なし)
- 数量増: 1日あたり30斤の追加製造が可能(既存設備の能力不足解消分)
- 稼働日数: 25日/月
- 販売率: 廃棄ロスを考慮し、販売率90%で試算
<計算式>
800円 × 30斤 × 25日 × 90% = 月間54万円の増収
年間では、54万円 × 12ヶ月 = 648万円の売上アップ
いかがでしょうか?
ここまで分解されていると、審査員は「なるほど、これなら実現できそうだ」と納得せざるを得ません。
反論の余地をなくすこと。これが因数分解の力です。
4. 忘れがちな「経費(コスト)」の落とし穴
売上(入ってくるお金)の話ばかりしてしまいましたが、利益を計算するには「経費(出ていくお金)」の計画も重要です。
ここでミスをすると、「利益が計算と合わない!」と突っ込まれます。
① 原価(材料費・仕入)は売上に連動させる
売上が上がれば、当然、材料費も増えます。
「売上は倍になるけど、原価はそのまま」なんて魔法はありません。
現状の原価率(例:30%)を維持するか、あるいは「大量仕入れで原価率が28%に下がる」といった根拠を添えて計算しましょう。
② 減価償却費(げんかしょうきゃくひ)を忘れない
これが最大の落とし穴です。
補助金で1,000万円の機械を買った場合、それは一気に経費になるのではなく、数年かけて「減価償却費」として計上されます。
(例:耐用年数10年なら、毎年100万円の経費増)
この減価償却費を計画に入れ忘れると、利益が過大に見積もられてしまいます。
また、「付加価値額」の計算にも関わってくる重要な項目です。必ず計上してください。
③ 人件費の増加(賃上げ)
多くの補助金で「賃上げ」が加点項目や必須要件になっています。
「給料を上げます!」と宣言したなら、数値計画表の「人件費」欄も、毎年確実に増えていなければなりません。
ここが横ばいだと、「言ってることとやってることが違う(不整合)」とみなされます。
5. 【業種別】劇的ビフォーアフター事例集
論より証拠です。
よくある「ざっくり計画」を、「採択される計画」にリライトしてみましょう。
ケースA:板金加工業(設備投資)
【Before:ざっくり計画(不採択)】
新しいレーザー加工機を入れることで、仕事が早くなります。
既存のお客様からの注文も増えているので、3年後には売上が20%アップする見込みです。
(表の数字:1億 → 1.1億 → 1.2億 と何となく右肩上がり)
【After:ロジカル計画(採択)】
【課題】 現在、旧型機では「厚板切断」に時間がかかり、月間約200時間の残業が発生している上、短納期案件を月5件(約100万円分)断っている。
【解決策】 新型ファイバーレーザー導入により、厚板の切断速度が「3倍」になる。
【数値根拠】
- 断っていた案件の獲得: 月100万円 × 12ヶ月 = 1,200万円増
- 新規開拓: 生産性向上により空いた時間(月50時間)を営業活動と試作に充て、新規顧客を年間2社獲得(1社あたり年間300万円想定)= 600万円増合計:年間1,800万円の売上アップを見込む。
ケースB:Web制作・システム開発(IT導入)
【Before:ざっくり計画(不採択)】
営業管理システム(SFA)を導入して、営業効率を上げます。
これにより、売上が毎年10%ずつ伸びる計画です。
【After:ロジカル計画(採択)】
【課題】 営業担当3名が、日報作成や見積もり作成などの事務作業に「1日2時間」を費やしており、顧客への提案時間が不足している。
【解決策】 SFA導入により事務作業を自動化し、1日あたり1.5時間を削減する。
【数値根拠】
- 創出時間: 1.5時間 × 3名 × 20日 = 月間90時間の「商談可能時間」が生まれる。
- 商談数増: 1商談1時間として、月間90件の商談が増加。
- 成約数増: 現在の成約率5%を掛けると、90件 × 5% = 月間4.5件の成約増。
- 売上増: 客単価50万円 × 4.5件 = 月間225万円(年間2,700万円)の増収
いかがでしょうか?
「効率が上がる」という曖昧な言葉を、「時間」と「件数」に変換することで、数字の説得力が段違いになります。
6. 「目標未達」だったらどうなる?罰則はあるの?
ここまで緻密に計画を立てても、やはり未来は分かりません。
「もし、計画通りにいかなかったら、補助金を返せと言われるの?」
という不安にお答えします。
結論:原則として、目標未達による「返還」はありません。
(※ただし、一部の例外を除きます)
補助金はあくまで「チャレンジへの支援」です。結果を保証するものではありません。
採択後は、年に1回「事業化状況報告」を行いますが、そこで「目標に届きませんでした」と正直に報告すれば、基本的にはお咎めなしです。
【例外:返還リスクがあるケース】
- 賃上げ要件の未達: 「事業再構築補助金」などの一部の枠では、「給与総額を年率〇%上げること」が必須要件になっており、未達の場合に補助金の一部返還を求められるルールがあります。
- 収益納付: 逆に「儲かりすぎた場合」に、補助金の一部を国に返すルールはあります(これは嬉しい悲鳴ですが)。
ですので、過度にペナルティを恐れて「弱気な数字」を書く必要はありません。
「ストレッチ目標(頑張れば届く高い目標)」を設定するほうが、審査員の心証も良く、採択されやすくなります。
7. 提出前の最終チェック!「整合性」の確認
数字を作り終えたら、最後に必ず「文章」との整合性をチェックしてください。
ここがズレていると、全てが台無しになります。
- [ ] 文章と数字は合っているか?
- 本文で「売上20%アップ」と書いているのに、表では「15%アップ」になっていませんか?
- [ ] 導入時期と売上計上時期は合っているか?
- 機械が入るのは「1年目の12月」なのに、「1年目の4月」から売上が増える計画になっていませんか?
- [ ] 人員計画と人件費はリンクしているか?
- 「3人採用します」と書いているのに、人件費が増えていない(タダ働き?)ことになっていませんか?
まとめ:数字は「経営者の意思」である
今回は、補助金申請における「数値計画」の書き方について解説しました。
要点を振り返りましょう。
- 数字は「予言」ではなく「ロジック(根拠)」で評価される。
- 「単価 × 数量 × 稼働率」などに因数分解して積み上げる。
- 減価償却費や原価など、コストも忘れずに計上する。
- 「効率化」は「時間」や「件数」に換算して数値化する。
- 文章(ストーリー)と数字(表)の整合性を必ず合わせる。
最後に、お伝えしたいことがあります。
事業計画書の数字は、単なる審査のための数字ではありません。
「この事業を絶対に成功させるんだ」という、経営者であるあなたの「意思」の表れです。
「これくらい売れたらいいな」ではなく、
「こう動けば、必ずこれだけ売れるはずだ」という確信に変わるまで、数字を分解し、シミュレーションを繰り返してください。
その思考プロセスこそが、実際のビジネスにおける成功確率を高める一番のトレーニングになります。
今回ご紹介した方法で作り上げた「強い数字」は、必ず審査員の心を動かし、採択という結果を引き寄せるはずです。
もし、「自分で計算してみたけど自信がない」「ロジックが通っているかプロに見てほしい」という場合は、ぜひ私たち専門家にご相談ください。
あなたの描く未来図を、より強固なものにするお手伝いをさせていただきます。
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