はじめに:「採択」はゴールではありません。お金を受け取るためのスタートラインです
「やった!補助金が採択された!」
その喜びも束の間、多くの個人事業主様や中小企業経営者様(あなた)を待ち受けているのが、膨大で厳格な「事務処理」の山です。
特に、補助金事務局による最後の審査(確定検査)で最も厳しくチェックされるのが、「お金の流れ」です。
「領収書があればいいんでしょう?」
もし、そう軽く考えているとしたら、少し危険です。
実は、補助金の現場では、「たった1枚の領収書の不備」で、数百万円の補助金が減額されたり、最悪の場合はゼロ(不支給)になったりするケースが決して珍しくないからです。
- 「宛名が個人名になっていた」
- 「クレジットカードで買ったけど、引き落とし日が期間外だった」
- 「銀行振込の控えを紛失してしまった」
こうした「うっかりミス」が、命取りになります。
この記事では、数多くの補助金申請を支援してきたプロの視点から、「絶対に失敗しない経費管理と領収書のルール」を徹底解説します。専門用語は極力使わず、現場ですぐに役立つ実践的なノウハウだけを詰め込みました。
これを読めば、御社の経理処理は完璧です。安心して事業に取り組むための「お守り」として、ぜひ最後までお読みください。
1. なぜそこまで厳しい?補助金の「経費」の考え方
まず最初に、なぜ補助金の経費チェックがこれほどまでに細かいのか、その背景を理解しておきましょう。ここを理解すると、揃えるべき書類の意味が見えてきます。
1-1. 原資は「税金」。だから1円のズレも許されない
補助金や助成金の原資は、国民の皆様から集めた「税金」です。
そのため、国や自治体(事務局)には、「適正に使われたことを証明する義務」があります。
「だいたい合っているからOK」というどんぶり勘定は通用しません。「いつ、誰が、誰に、何のために、いくら支払ったか」が、第三者が見ても客観的に分かる状態でなければならないのです。
1-2. 「証憑書類(しょうひょうしょるい)」とは?
補助金申請の手引きを読むと、「証憑書類」という難しい言葉が出てきます。
これは簡単に言えば、「取引の証拠となる書類セット」のことです。
領収書は、そのセットの中の「1つのパーツ」に過ぎません。
一般的に、補助金では以下の「4点セット」+「通帳」が揃って初めて、経費として認められます。
- 見積書(いくらで買うか決めた証拠)
- 発注書・契約書(注文した証拠)
- 納品書・完了報告書(モノやサービスを受け取った証拠)
- 請求書(支払いを求められた証拠)
- 領収書・振込受領証(支払った証拠)
この一連の流れ(見積もりから支払いまで)の日付や内容に矛盾がないか。これを確認するのが「確定検査」です。領収書だけあっても、他がなければ経費として認められないのです。
2. 失敗しない「領収書」の必須チェックポイント5選
では、具体的に「どんな領収書ならOKで、どんな領収書がNGなのか」を見ていきましょう。受け取ったその瞬間に確認すべき5つのポイントがあります。
ポイント①:宛名(あてな)は正確か?
- ◎ 正解: 申請した「法人名」または「屋号(個人事業主の場合)」
- × NG: 「上様」、「空欄」、社長の「個人名(※)」
※個人事業主の場合、屋号が入っていればベストですが、代表者個人名でも認められるケースはあります。しかし、法人の場合は必ず「法人名」でなければなりません。従業員名義の領収書などは、立替経費精算書などの追加書類が必要になり、手続きが煩雑になります。
ポイント②:但し書き(ただしがき)は具体的か?
- ◎ 正解: 「〇〇型番 PC代として」「ホームページ制作着手金として」
- × NG: 「お品代として」「商品代として」
何を買ったのかが分からない但し書きは、経費として認められません。レシートなどで品名が印字されている場合はそのままで大丈夫ですが、手書き領収書をもらう場合は注意が必要です。
ポイント③:日付は「補助事業期間内」か?
ここが最大の落とし穴です。
補助金には、必ず「この期間内に発注から支払いまで全て終わらせてください」という期間(補助事業実施期間)が設定されています。
- 発注日: 期間内であること
- 納品日: 期間内であること
- 支払日(領収書の日付): 期間内であること
この3つすべてが期間内に収まっている必要があります。「注文は期間内にしたけど、支払いが期間を過ぎてしまった」場合、その経費は全額対象外となります。
ポイント④:発行元(支払先)の情報はあるか?
相手先の住所、電話番号、インボイス登録番号などが記載されているか確認しましょう。実態のない会社への支払いを防ぐためです。
ポイント⑤:金額は見積書・請求書と一致しているか?
当たり前のようですが、振込手数料を差し引いて振り込んだり、端数をおまけしてもらったりして、請求額と領収額がズレることがあります。
補助金は「実際に支払った金額(領収書の金額)」と「請求額」を照らし合わせます。ズレがある場合は、その理由を説明する資料が必要になります。
3. 「現金払い」は避けるべき?支払方法の鉄則
SEOの観点からも、「補助金 クレジットカード」「補助金 銀行振込」は検索ボリュームの多い悩みです。
プロとしての結論をお伝えします。
「原則、すべて銀行振込にしてください」
なぜでしょうか? それぞれの支払い方法のリスクを解説します。
3-1. 銀行振込が「最強」である理由
補助金の検査では、「通帳のコピー」の提出が求められます。
「請求書」と「通帳の出金履歴」が一致していれば、客観的に支払いの事実が証明できるからです。
- 注意点: ネットバンキングを利用する場合、「振込完了画面」のスクリーンショットでは不可の場合があります。必ず銀行が発行する「振込金受取書」のデータをダウンロードするか、通帳に記帳してください。
- 注意点: 複数の経費をまとめて振り込む(総合振込)と、個別の金額が通帳で見えなくなります。可能な限り、補助金対象の経費は「1件ずつ」振り込んでください。
3-2. クレジットカード払いの大きなリスク
最近のネット通販やSaaS利用料などはクレジットカード払いが一般的ですが、補助金申請においては注意が必要です。
リスク:
カードを切った日(決済日)と、口座からお金が引き落とされる日(引落日)にはタイムラグがあります。
補助金で言う「支払い完了」とは、「口座からお金が引き落とされた日」を指します。
もし、補助事業期間の最終日にカードで購入し、引き落としが翌月(期間外)になった場合、その経費は対象外になります。これは本当によくある悲劇です。
対策:
どうしてもカードを使う場合は、事業期間の終了1〜2ヶ月前までには決済を終え、期間内に引き落としが完了するようにしてください。また、「利用明細書」だけでなく「引き落とし口座の通帳コピー」の提出も必須です。
3-3. 現金払いが嫌われる理由
少額の経費(備品購入など)なら現金でも認められますが、10万円を超えるような支払いで現金を使うと、事務局から怪しまれます。「本当に支払ったのか?」「領収書を偽造していないか?」と疑われやすいためです。
現金払いをした場合は、「出金伝票」の作成や、「現金出納帳」のコピー提出を求められることがあります。事務処理が増えるだけなので、可能な限り振込を利用しましょう。
4. 経費管理の「やってはいけない」NG事例集
ここでは、過去に私が相談を受けた中で、実際にあった「冷や汗モノ」の事例をご紹介します。反面教師として参考にしてください。
NG事例①:他の買い物と混ざっている(レシート問題)
ホームセンターなどで、補助金対象の工具を買うついでに、個人的な日用品や補助金対象外の消耗品を一緒に会計してしまったケース。
解説:
1枚のレシートに混在していると、審査担当者が確認するのに手間取ります。最悪の場合、「どれが対象経費か不明確」として差し戻されます。
対策:
会計は必ず分けてください。「補助金対象のもの」だけでレジを通し、独立したレシート・領収書をもらいましょう。
NG事例②:ポイント・クーポンを使ってしまった
例えば、10万円のパソコンを買う際に、溜まっていた1万円分のポイントを使用して、支払額が9万円になったケース。
解説:
補助金の対象になるのは、実際に現金が出ていった「9万円」の部分だけです。
しかし、申請書には「10万円」で計画を出しているため、計算が合わなくなります。
対策:
補助金対象経費の支払いには、ポイントやクーポンは絶対に使用しないでください。事務処理が極端に複雑になります。
NG事例③:相殺(そうさい)決済をしてしまった
取引先に対して「売掛金があるから、今回の支払いとチャラにしておいて」という処理。
解説:
これは補助金では認められません。「お金の移動」が見えないからです。
対策:
面倒でも、一度全額を振り込み、売掛金は別途振り込んでもらうという「総額でのやり取り」を行ってください。
5. 検査官もニッコリ!完璧な「ファイリング術」
採択後は、数ヶ月から1年近く事業を行います。その間、書類を無くさないように管理する必要があります。
確定検査をスムーズにパスするための、プロ直伝のファイリング術を伝授します。
手順①:専用のフラットファイルを1冊用意する
他の書類と混ざらないよう、補助金専用のファイルを1冊作りましょう。100円ショップのもので十分です。
手順②:経費ごとに「インデックス」を作る
例えば、「機械装置費」「広報費」「専門家謝金」といった費目ごとに仕切りを入れます。
手順③:時系列順に「台紙」に貼る
A4のコピー用紙(裏紙でOK)を用意し、そこに小さい領収書などを貼り付けます。
重要なのは並び順です。以下の順序で1セットにしておくと、検査官が見やすくて感動します。
- 見積依頼書(あれば)
- 見積書
- 相見積書(必要な場合)
- 発注書(注文書)
- 納品書
- 請求書
- 振込金受取書(または通帳コピー)
- (ネットバンキング等の場合)支払完了画面のコピー
この「1セット」を、経費が発生するたびに作っていきます。
手順④:データ化(スキャン)も忘れずに
紙での保存はもちろんですが、最近の補助金申請は「Jグランツ」などの電子申請システムで、PDFデータをアップロードする形式が主流です。
書類を入手したら、すぐにスマホのスキャンアプリや複合機でPDF化し、パソコン内の「補助金フォルダ」に保存する習慣をつけましょう。
6. 補助金をもらった後も続く「5年間の保存義務」
「補助金が入金された!これで終わり!」
実は、まだ終わりではありません。
補助金のルールには、「事業終了後、5年間は関係書類を保存しなければならない」という義務があります。
会計検査院(かいけいけんさいん)の実地調査
稀なケースですが、補助金受給後に国の「会計検査院」が抜き打ち調査に来ることがあります。
その際、「5年前のあの領収書を見せてください」と言われて、「捨てました」では済まされません。場合によっては、補助金の返還命令が出ることもあります。
今回作成した「補助金専用ファイル」は、通常の経理書類とは分け、「重要書類:補助金関係(保存期限〇〇年まで)」と赤字で書いて、金庫や倉庫の分かりやすい場所に保管しておきましょう。これさえやっておけば、いつ誰が来ても安心です。
7. まとめ:完璧な経費管理は、会社の信用力を高める
ここまで、補助金申請における経費管理と領収書の注意点について解説してきました。
少し「怖いな」「面倒だな」と感じられたかもしれません。
しかし、要点をまとめると以下の3つだけです。
- 「見積→発注→納品→支払」の4点セットを整合させること。
- 支払いは原則「銀行振込」にし、期間内に完了させること。
- 領収書や証拠書類は、すぐにPDF化して専用ファイルにまとめること。
これらの作業は、単に補助金をもらうためだけのものではありません。
お金の流れを透明にし、書類をきっちり管理することは、「税務調査に強い会社」を作ることであり、「金融機関から信用される会社」になるための第一歩でもあります。
補助金申請は、御社の経理体制を筋肉質にする絶好のトレーニングです。
この機会に、どんぶり勘定から卒業し、盤石な管理体制を築き上げてください。
どうしても不安なときは、専門家を頼ってください
「自分のケースはこの処理で合っているのか?」
「忙しくて書類の整理まで手が回らない」
もし、そのような不安があれば、無理に一人で抱え込まないでください。
私のような申請支援の専門家は、採択後の「交付申請」や「実績報告(確定検査用書類の作成)」のサポートも行っています。
事務作業はプロに任せて、あなた(経営者様)は本業の売上アップに専念する。
それもまた、賢い経営判断の一つです。
せっかく採択された補助金です。1円も無駄にすることなく、確実に受け取り、御社のさらなる飛躍のために活用していきましょう!

