はじめに:「いい商品なら売れる」…その思い込みが不採択の元凶です
「ウチの商品は品質が良いから、知ってもらえれば絶対に売れるはずだ」
「このサービスは画期的だから、みんなが欲しがるに違いない」
補助金の申請サポートをしていると、多くの経営者様(あなた)からこのような言葉をお聞きします。
自社の製品やサービスに自信を持つことは、経営者として素晴らしい資質です。
しかし、補助金の審査員(中小企業診断士などの専門家)に対して、そのまま「自信があります!」と伝えても、残念ながら採択はされません。
なぜなら、審査員はあなたのビジネスの専門家ではないからです。彼らは冷徹にこう考えます。
「本当にそれを欲しがっている人はいるの?」
「それは、社長の単なる思い込みではないの?」
補助金は、皆様から集めた税金を原資とする「投資」です。
「誰も欲しがらない商品(市場ニーズのない事業)」に投資をする人はいません。
だからこそ、事業計画書の中で「市場ニーズ(=売れる根拠)」を客観的なデータとロジックで証明することが、採択を勝ち取るための絶対条件となるのです。
「でも、市場調査なんて大掛かりなことはできないよ…」
「どうやってデータを集めればいいのか分からない」
そう不安に思う必要はありません。
中小企業には中小企業なりの「市場ニーズの書き方」があります。何百万円もかけて調査会社に依頼する必要はありません。
この記事では、数千件の申請書を見てきたプロの視点から、「審査員が納得せざるを得ない市場ニーズの書き方」を徹底解説します。
データの探し方から、文章の組み立て方、そして劇的ビフォーアフターの事例まで。
これを読めば、あなたの事業計画書は「主観的な願望」から「客観的な勝てる計画」へと生まれ変わります。
1. 審査員は何を見ている?「市場ニーズ」の正体
具体的な書き方に入る前に、敵(審査のポイント)を知りましょう。
なぜ、事業計画書には「市場動向」や「顧客ニーズ」の欄があるのでしょうか?
1-1. 「プロダクトアウト」ではなく「マーケットイン」か?
ビジネスには2つの考え方があります。
- プロダクトアウト: 「作りたいものを作ってから、売り先を探す」
- マーケットイン: 「顧客が欲しがっているもの(市場の悩み)に合わせて、商品を作る」
補助金審査で圧倒的に有利なのは、後者の「マーケットイン」です。
「世の中でこういう困りごとが増えている。だから、この商品を開発する」
この順番で書かれている計画書は、失敗するリスクが低いと判断されます。
1-2. 「誰に」売るかが明確か?
「市場ニーズがあります」と書いてあっても、「誰のニーズなのか」が曖昧だと点数は入りません。
- × 全国の20代〜60代の男女
- 〇 半径2km圏内に住む、共働きで夕食を作る時間がない30代の子育て世帯
ここまで解像度を高めて初めて、「ニーズがある」と言えるのです。
1-3. 「なぜ今(Why Now)」やる必要があるか?
市場は常に動いています。
「5年前でもなく、5年後でもなく、なぜ今このタイミングで投資する必要があるのか?」
この問いに答えるためには、「今の市場トレンド(追い風)」を示す必要があります。
2. 説得力が3倍になる!「マクロ」と「ミクロ」の2層構造
市場ニーズを書く際、いきなり「近所のお客さんが…」と書き始めてはいけません。
説得力のある文章には、必ず「全体(マクロ)」から「個別(ミクロ)」へと視点を移していく構成が必要です。
① マクロ環境(世の中全体の流れ)
まずは、日本全体や業界全体の大きな流れを示します。これが「追い風」の証明になります。
- 社会情勢: 人口減少、高齢化、共働き世帯の増加、SDGs、DX化など。
- 業界動向: 市場規模の拡大・縮小、原材料高騰、法改正など。
【ポイント】
「世の中全体がこういう流れになっているから、この事業にはチャンスがある」という大前提を作ります。
② ミクロ環境(あなたの商圏・ターゲット)
次に、視点をグッと絞り込みます。マクロのトレンドが、あなたの商圏(エリアや特定の顧客層)でどう現れているかを示します。
- 地域特性: 駅前の再開発が進んでいる、高齢者が多いエリアだ、競合店が撤退した。
- 顧客の声: 既存客から「こんな商品が欲しい」と言われた、アンケート結果。
【ポイント】
「世の中の流れ(マクロ)」を踏まえた上で、「私の目の前のお客様(ミクロ)」も実際に困っている。
この2つが揃うことで、ニーズの証明は完璧になります。
3. お金はかけない!「使えるデータ」の探し方 4選
「マクロとかミクロとか言うけど、そんなデータどこにあるの?」
安心してください。デスクに座ったまま、無料で手に入るデータで十分戦えます。
ソース①:官公庁の統計データ(e-Stat、経済産業省など)
最も信頼性が高い「一次情報」です。
- e-Stat(政府統計の総合窓口): 人口推移、家計調査(何にいくら使っているか)などが分かります。
- 経済産業省・中小企業庁のレポート: 「ものづくり白書」や「中小企業白書」には、業界ごとの課題やトレンドがまとまっています。
ソース②:Googleトレンド / キーワードプランナー
「人々の興味・関心」を可視化するツールです。
- Googleトレンド: 特定のキーワード(例:「冷凍餃子」「オンライン会議」)の検索数が、過去数年で増えているか減っているかが分かります。
- 「ここ3年で『〇〇』の検索数が急上昇しており、関心の高さが伺える」と書けば立派な根拠です。
ソース③:業界新聞・ニュースサイト
業界特化の専門紙(日本食糧新聞、建設通信新聞など)や、ニュースサイトの記事も有効です。
- 「〇月〇日の日経新聞によると、〇〇市場は昨年対比120%で成長している」これだけで、客観的な裏付けになります。
ソース④:【最強】自社の顧客アンケート・口コミ
中小企業にとって、実はこれが最強の武器です。
大手シンクタンクのレポートよりも、あなたの店の「お客様の生の声」の方が、審査員の心を動かします。
- アンケート: 「来店客100名にアンケートを取ったところ、80%が『もっと〇〇してほしい』と回答した」
- Googleマップの口コミ: 「口コミで『〇〇メニューを復活させてほしい』という要望が多数寄せられている」
これは、御社にしか出せない独自の「ミクロデータ」です。必ず盛り込んでください。
4. データがあるだけではダメ!「事実×解釈」の黄金フォーマット
データを集めたら、いよいよ文章にします。
ここで多くの人がやる失敗が、「データのコピペ(貼り付け)」だけで終わってしまうことです。
× 悪い例
「総務省のデータによると、共働き世帯は年々増加しています。(グラフ貼り付け)」
「以上です。」
これでは審査員は「だから何?」と思います。
重要なのは、「そのデータが、御社のビジネスにとって何を意味するのか(解釈)」を加えることです。
【黄金フォーマット】
- 事実(Fact): データを提示する。
- 解釈(Insight): そのデータから読み取れる、顧客の悩みや欲求は何か?
- 戦略(Action): だから、当社はこれを提供する。
〇 良い例
1. 事実: 総務省のデータによると、当市における共働き世帯はこの5年で1.2倍に増加しています。
2. 解釈: これにより、「平日の夕食を作る時間がない」「でも惣菜ばかりでは健康が心配」というニーズが、地域内で急速に高まっています。
3. 戦略: そこで当店は、地元の無農薬野菜を使用し、栄養バランスに配慮した「子供に安心して食べさせられる冷凍ミールキット」を開発・販売します。
いかがでしょうか?
データ(事実)が、ビジネスチャンス(戦略)へと綺麗に繋がりました。これが「説得力」の正体です。
5. 【業種別】劇的ビフォーアフター事例集
論より証拠です。
よくある「主観的な書き方」を、「データに基づいた客観的な書き方」にリライトしてみましょう。
ケースA:飲食店(カフェ)の場合
【Before:主観のみ】
当店はコーヒーの味にこだわっています。最近は健康志向の人も多いので、オーガニックのランチを始めれば、きっとたくさんのお客様に来てもらえると思います。
【After:データ×ロジック】
【マクロ環境:健康志向の高まり】
矢野経済研究所の調査によると、国内のオーガニック食品市場は年平均〇%で成長を続けており、食の安全への関心が高まっています。
【ミクロ環境:エリアの空白地帯】
当店の商圏(半径1km以内)には、30代〜40代の女性比率が高いにも関わらず、健康メニューを提供する競合店が存在しません(Googleマップ調査)。
また、既存客へのアンケート(N=50)では、7割のお客様から「野菜中心のランチがあれば週2回は通いたい」との回答を得ています。
【結論】
潜在的な需要に対し供給が不足しているこのエリアで、オーガニックランチを提供することで、月間〇〇名の新規集客が確実に見込めます。
ケースB:建設業(リフォーム)の場合
【Before:主観のみ】
丁寧な仕事には自信があります。最近は古い家も多いので、リフォームの仕事は増えると思います。チラシを撒いて集客します。
【After:データ×ロジック】
【マクロ環境:空き家問題と断熱リフォーム需要】
政府の「2050年カーボンニュートラル宣言」に伴い、住宅の省エネ化(断熱リフォーム)に対する補助金制度が拡充され、市場の関心が高まっています。
【ミクロ環境:地域特有の課題】
当社が拠点を置く〇〇地区は、昭和50年代に造成されたニュータウンであり、築40年を超える木造住宅が約〇〇戸集中しています(市役所データ)。
これらの住宅は断熱性能が低く、「冬場に寒い」「ヒートショックが怖い」という高齢者世帯からの相談が、昨対比で150%増加しています。
【結論】
この「断熱リフォーム需要」に対し、当社の強みである「一級建築士による断熱診断」を掛け合わせることで、地域内の改修需要を的確に取り込みます。
6. 絶対にやってはいけない「3つのNG」
最後に、これをやると一発で「信用できない計画書」認定されてしまうNG行動をお伝えします。
NG①:市場規模を大きく見せすぎる(TAMの罠)
「日本の外食市場は25兆円です!だからウチも売れます!」
これはナンセンスです。あなたの店に北海道や沖縄からお客さんは来ません。
中小企業の場合、見るべきは「市場全体(TAM)」ではなく、「自社がアプローチ可能な市場(SOM)」です。
風呂敷を広げすぎず、足元の商圏データを語ってください。
NG②:データが古すぎる
「平成25年のデータによると…」
今は令和です。10年前のデータを出された時点で、審査員は「この社長、今の市場を見ていないな」と判断します。
原則として「直近3年以内」のデータを使ってください。コロナ禍以前のデータは、現在の消費者行動と乖離している可能性が高いため要注意です。
NG③:出典元を書かない
「〜と言われています」「〜というデータがあります」
どこ情報ですか? ネットの噂話ですか?
必ず「(出典:経済産業省 2023年〇〇統計より)」と明記してください。これがあるだけで信頼度が段違いです。
7. まとめ:市場ニーズは、事業の「羅針盤」である
今回は、事業計画書における「市場ニーズ」の書き方について解説しました。
要点を振り返りましょう。
- 「自信」ではなく「証拠」を示す。 プロダクトアウトからマーケットインへ。
- 「マクロ(世の中)」と「ミクロ(商圏)」の2層構造で攻める。
- 官公庁データ、Googleトレンド、自社アンケートを活用する。
- 「事実×解釈×戦略」のフォーマットで文章化する。
- 風呂敷を広げすぎず、足元の顧客を見つめる。
市場ニーズを調べるという作業は、単に審査員を説得するためだけのものではありません。
「誰が、なぜ、あなたの商品を求めているのか?」
この問いに向き合うことは、御社のビジネスの進むべき方向を決める「羅針盤」を手に入れる作業でもあります。
もし、調べていく中で「あれ?意外とニーズがないかも?」と気づいたなら、それはラッキーです。
失敗する前に計画を修正できるからです。
逆に、「やっぱりこの悩みは深い!ウチの商品が絶対に必要だ!」と確信が持てたなら、その熱意は必ず文章に乗って審査員に届きます。
今回ご紹介した手法を使って、あなたの頭の中にある「売れる予感」を、誰が見ても納得する「勝てる計画」へと変換してください。
その先には、採択というゴールと、事業の成功が待っています。
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