「今、検討している『IT導入補助金』と、以前から気になっていた『小規模事業者持続化補助金』、これって両方申し込んでもいいのだろうか?」
「助成金をもらっている最中に、別の補助金にエントリーしたら、どちらかが取り消しになったりしないだろうか……」
経営者の皆様であれば、少しでも多くの資金を確保し、事業を加速させたいと考えるのは当然のことです。特に、資金繰りが重要な局面では、使える制度はすべて使い倒したいというのが本音でしょう。
結論から申し上げます。
「複数の補助金・助成金を同時に受け取ることは『可能』です」。
しかし、そこには「絶対に守らなければならない鉄の掟(ルール)」が存在します。ここを理解せずに手当たり次第に申請してしまうと、最悪の場合、採択取り消しや返還命令、さらには不正受給とみなされてしまうリスクさえあります。
この記事では、複雑で分かりにくい「補助金の併用(同時受給)」について、専門用語を使わずに噛み砕いて解説します。これを読めば、あなたの会社がどの制度を組み合わせ、どうすればリスクゼロで最大限の支援を受けられるのか、その「勝ち筋」が見えてくるはずです。
1. そもそも「併用」とは? まず押さえるべき大原則
「併用」と一口に言っても、実は2つのパターンがあります。
- 「違う制度」に同時に申し込むこと
- 「同じ経費」を複数の制度で請求すること
この2つの違いを明確にすることが、最初のステップです。
「補助金」と「助成金」の違いをおさらい
まずは言葉の定義を整理しましょう。ここが混ざっていると、併用のルールが理解できません。
- 補助金(主に経済産業省系):
- 目的:事業の成長、設備投資、新サービス開発など。
- 特徴:採択率(合格率)があり、審査に通らないともらえない。
- 例:事業再構築補助金、ものづくり補助金、IT導入補助金など。
- 助成金(主に厚生労働省系):
- 目的:雇用維持、労働環境の改善、人材育成など。
- 特徴:要件を満たせば原則として誰でももらえる。
- 例:キャリアアップ助成金、雇用調整助成金など。
結論:制度としての「併用」はOK、「経費」の重複はNG
原則として、Aという補助金とBという助成金を、同じ時期に申請・受給すること自体は問題ありません。
しかし、「1つの領収書(経費)に対して、ダブルで請求すること」は絶対にNGです。
例えば、100万円の機械を買ったとします。
- 補助金A(補助率2/3)で66万円をもらう。
- 補助金B(補助率1/2)で50万円をもらう。
これを認めると、あなたは100万円の支払いで合計116万円を受け取ることになり、「補助金で儲ける」ことになってしまいます。これは税金の二重取りとなるため、固く禁じられています。
2. 併用ができるケース、できないケース【具体例で解説】
では、具体的にどのようなパターンならOKで、何がNGなのか。よくあるケースを元に解説します。
ケース①:【OK】目的と対象経費が「別々」である場合
これが最も安全で、推奨されるパターンです。
- 事業再構築補助金で、「工場の改装費」と「大型機械の購入費」を申請。
- IT導入補助金で、「会計ソフト」と「PC」を申請。
この場合、購入するモノ(対象経費)が全く異なりますよね。事業の目的も「工場の改装(新規事業)」と「バックオフィスの効率化(生産性向上)」で明確に分かれています。これなら、同じ時期に両方採択されても問題ありません。
ケース②:【NG】同じ事業・同じ経費を「二重」に申請する場合
先ほど触れた「二重取り」のパターンです。
- 小規模事業者持続化補助金で、「Webサイト制作費」として50万円申請。
- 地方自治体の販路開拓助成金で、全く同じ「Webサイト制作費」として30万円申請。
これはアウトです。たとえ国と自治体で管轄が違っても、同じ見積書・請求書を使い回すことはできません。
ケース③:【要確認】「上乗せ(横出し)」ならOKな場合も
実は、例外的に「同じ経費」でも併用できるケースがあります。それが自治体の「上乗せ補助」です。
例えば、国の「ものづくり補助金」で1000万円の設備を買い、666万円(2/3)の補助を受けたとします。残りの334万円は自己負担(持ち出し)になりますよね。
この自己負担分に対して、県や市が「自己負担の1/2を補助しますよ」という制度を用意していることがあります。
これは「国の補助金の不足分を補う」という明確なルールのもと運用されているため、併用が可能です。地元の商工会議所や自治体HPで「上乗せ」「嵩上げ(かさあげ)」というキーワードで探してみましょう。
3. 最強の組み合わせ?「補助金」×「助成金」のクロス戦略
私が最もおすすめしたいのが、「経済産業省系の補助金(攻めの投資)」と「厚生労働省系の助成金(守りと人)」の併用です。
なぜなら、この2つはそもそも「対象となる経費」が被りにくいからです。
成功モデルの例
あなたが新しい飲食店をオープンするとします。
- 【設備投資】事業再構築補助金
- 店舗の改装工事費、厨房機器の購入費をカバー。
- 【人材採用】キャリアアップ助成金
- 新しく雇ったアルバイトスタッフを正社員化する際の賃金アップ分をカバー。
- 【IT化】IT導入補助金
- POSレジや予約管理システムの導入費をカバー。
このように、
- 「モノ・建物」は補助金(経産省)
- 「ヒト・雇用」は助成金(厚労省)
と役割分担を明確にすることで、複数の資金調達ルートを同時に走らせることができます。これは、経営を安定させる上で非常に強力な戦略です。
4. 併用申請をする際の「3つの注意点」
「よし、それなら全部申請しよう!」と意気込む前に、必ず確認していただきたい落とし穴があります。
注意点①:事業テーマ(ストーリー)の整合性
複数の補助金に申請する場合、それぞれの事業計画書の内容に矛盾がないか注意が必要です。
例えば、
- 補助金Aの計画書:「今後は高級路線に特化し、客単価を上げます」
- 補助金Bの計画書:「今後は薄利多売で、回転率を上げるシステムを入れます」
このように、会社の方針として矛盾したことを書いていると、審査員(あるいは事後検査)で「この会社、言っていることがおかしいぞ?」と疑念を持たれます。会社としてのビジョンは統一させましょう。
注意点②:事務処理の負担が倍増する
補助金・助成金は「もらって終わり」ではありません。採択後の「交付申請」、事業終了後の「実績報告」、さらに数年間にわたる「状況報告」が必要です。
1つの補助金でも書類作業は膨大です。これを2つ、3つと同時に抱えることになります。
「資金は確保できたが、社長が書類作成に追われて本業がおろそかになった」となっては本末転倒です。事務処理能力に見合った数を申請しましょう。
注意点③:期間の重複(事業実施期間)
補助金には「いつからいつまでに発注・納品・支払いを完了させなさい」という期間が決まっています。
複数のプロジェクトを同時進行させると、資金繰り(立て替え払い)のタイミングが重なり、キャッシュフローが一時的に悪化する恐れがあります。
「いつ入金されるか」だけでなく**「いつ支払う必要があるか」**をスケジュール表に落とし込み、資金ショートしないよう計画を立ててください。
5. 審査への影響は?「複数申請」は不利になるのか
「欲張ってたくさん申請すると、審査員の心証が悪くなって落ちるのではないか?」
この質問もよく頂きます。
結論としては、「制度上、不利になることは原則ありません」。
各補助金の審査は独立して行われます。審査員は「この会社は他にも申請しているか?」という情報をリアルタイムで全て把握して審査しているわけではありません(※一部、省庁間でデータベース共有が進んでいますが、それは不正検知のためであり、正当な申請を落とすためではありません)。
むしろ、「過去に〇〇補助金を活用して成功した実績がある」という事実は、適切にアピールすれば「事業遂行能力が高い会社だ(=お金を預けても安心だ)」というプラス評価に繋げることも可能です。
ただし、同じ年度に同じ補助金の「別枠」に申し込む場合(例:事業再構築補助金の通常枠とグリーン枠など)は、ルールで制限されていることが多いので、公募要領を熟読してください。
6. まとめ:パズルを解くように組み合わせよう
複数の補助金・助成金の併用について解説してきました。
ポイントを整理します。
- 併用は可能。ただし「同じ領収書(経費)」の使い回しは絶対NG。
- 「モノ(補助金)」と「ヒト(助成金)」の組み合わせは最強の相性。
- 国と自治体の上乗せ補助がないか必ずチェックする。
- 事務負担とキャッシュフローを考慮し、キャパシティを超えない範囲で申請する。
補助金や助成金は、国が用意してくれた「経営支援のツール」です。ルールを守って正しく活用すれば、100の力で進むところを、120、150のスピードで成長させることができます。
「うちの会社の場合、具体的にどの組み合わせが使えるの?」
「アイデアはあるけれど、対象経費が被らないか判断がつかない」
そう迷われた時は、自己判断で進めて後で「対象外」と言われないよう、専門家の知恵を借りることを強くお勧めします。
補助金申請のプロ(認定支援機関、中小企業診断士、社会保険労務士など)は、今のあなたの会社の状況を見て、「今月はこれを申請し、半年後にあれを申請しましょう」という最適なロードマップを描いてくれます。
まずは無料相談などを活用し、あなたの会社が受け取れる可能性のある「埋蔵金」を掘り起こしてみてはいかがでしょうか。賢く制度を利用して、ビジネスを次のステージへと押し上げましょう。

