「新しい事業を始めたい」
「IT化を進めて、業務を効率化したい」
「優秀な人材を雇って、会社を成長させたい」
ビジネスを運営する上で、こうした「次の一手」を打つための「資金」は、経営者であるあなたにとって永遠のテーマです。
「しかし、銀行から『融資(借金)』を受けるのは、金利もかかるし、何より精神的なプレッシャーが大きい…」
「かといって、自己資金(キャッシュ)は、万が一のために温存しておきたい…」
そんなあなたの悩みを解決する、強力な選択肢があります。
それが、国や自治体から支給される「返済不要の資金」です。
具体的には「補助金(ほじょきん)」と「助成金(じょせいきん)」と呼ばれる制度です。
「名前は聞いたことがある」
「でも、ウチみたいな個人事業主や小さな会社が、本当にもらえるの?」
「”返済不要”なんて、うますぎる話だ。何かウラ(デメリット)があるんじゃないか?」
その感覚、経営者として非常に正しいです。
これらの制度は、確かに「夢のような」メリットがある反面、知らずに飛び込むと**「こんなはずじゃなかった…」**と後悔する「落とし穴(デメリット)」も存在します。
この記事は、補助金・助成金の知識がゼロのあなたへ向けた「超入門ガイド」です。
メリット(良い点)とデメリット(注意点)を包み隠さず解説し、あなたの会社が「今、本当に活用すべきか」を判断するための「羅針盤」となります。
【最重要】まず、この違いだけは押さえてください
本題のメリット・デメリットに入る前に、9割の経営者様が混同している「補助金」と「助成金」の決定的な違いを解説します。
ここを間違うと、スタートラインにすら立てません。
例えるなら、このイメージを持ってください。
- 補助金 = 審査で選ばれる「コンテスト(選抜)」
- 助成金 = ルールを守ればもらえる「ミッション(達成報酬)」
補助金(=コンテスト)とは?
- 目的:国の政策(例:IT化の推進、新技術の開発)に沿った、企業の「新しい挑戦(攻めの投資)」を後押しします。
- 管轄: 主に経済産業省や自治体
- 対象: 「モノ・カネ」が中心(例:新しい機械の導入、ホームページ制作、システム開発)
- 特徴:「こんな事業計画で、社会に貢献しつつ成長します!」という計画書を提出し、審査を受けます。予算と採択(合格)枠に限りがあるため、どんなに良い計画でも、競争に負ければ「不採択(不合格)」となり、1円ももらえません。
助成金(=ミッション)とは?
- 目的:「雇用の安定」や「働きやすい職場環境づくり(守りの整備)」を後押しします。
- 管轄: 主に厚生労働省
- 対象: 「ヒト(雇用)」が中心(例:パートを正社員にする、従業員に研修を受けさせる、育休制度を整える)
- 特徴:国が定めた「ルール(要件)」をすべてクリアし、正しい手順で申請すれば、原則として「受給」できます。補助金のような「競争」や「審査での不合格」は、基本的にありません。(※申請の不備や要件を満たさない場合は不支給になります)
【早見表】補助金 vs 助成金
| 比較ポイント | 補助金 (コンテスト) | 助成金 (ミッション) |
| 主な目的 | 事業の成長 (攻めの投資) | 雇用の安定 (守りの整備) |
| 主な管轄 | 経済産業省、自治体 | 厚生労働省 |
| 対象 | モノ・カネ (設備, IT, 広告など) | ヒト (雇用, 研修, 制度など) |
| 難易度 | 【高】(審査と競争あり) | 【低】(要件を満たせば受給) |
| もらえるか? | 不採択(不合格)あり | 要件を満たせば原則もらえる |
この「根本的な違い」を理解した上で、それぞれのメリットとデメリットを深掘りしていきましょう。
【メリット編】なぜ経営者は「返済不要の資金」を狙うべきなのか?
「融資(借金)」と「補助金・助成金」を比較した際の、圧倒的なメリットを解説します。
メリット①:【最大の魅力】返済の義務と金利(利息)が一切ない
これが最大のメリットです。
例えば、銀行から500万円の「融資」を受けたら、事業が成功しようが失敗しようが、数年かけて「元本+利息」を返済し続けなければなりません。
しかし、補助金や助成金で500万円を受け取った場合、それは「あなたの会社のお金(売上や雑収入と同じ)」になります。
返済する必要は一切ありません。
これは、経営者であるあなたの「精神的なプレッシャー」をゼロにする、とてつもないメリットです。
メリット②:「自己資金(キャッシュ)」を温存したまま、大きな投資ができる
「本当は、あの最新の機械を導入すれば、生産性は2倍になるのに…」
「でも、手元のキャッシュ500万円を全部使ってしまうのは、怖すぎる…」
こんなジレンマを、補助金が解決します。
例えば、補助率2/3(3分の2を補助)の「ものづくり補助金」を使えば、
600万円の機械を、実質200万円の自己負担で導入できる計算になります。
手元のキャッシュを温存し、万が一の事態に備えながら、ライバルよりも先に「攻めの一手」を打つことができるのです。
メリット③:「国のお墨付き」という、絶大な「信用」が手に入る
これは「お金」以外の、非常に大きな「副次的メリット」です。
- 補助金の場合:「採択される」=「あなたの事業計画は、国(専門家)が”将来性がある”と認めた」という、最強の”お墨付き”です。この「採択通知書」は、銀行に追加融資を相談する際、何よりも強力な「信用」として機能します。
- 助成金の場合:「受給できる」=「あなたの会社は、国が定める”雇用ルール”をしっかり守り、従業員を大切にしている」という”ホワイト企業の証明”です。この事実は、採用活動において、他のどの求人広告よりも優秀な人材を引き寄せる「魅力」となります。
メリット④:事業計画や社内ルールを「見直す」最高のキッカケになる
- 補助金の場合:申請には「事業計画書」が必須です。「自社の強みは?」「弱みは?」「3年後、5年後はどうなっていたい?」…日々の業務に追われる中で、なかなか向き合えない「会社の未来」について、真剣に考え、言語化する。このプロセスそのものが、お金以上に価値のある「経営の羅針盤」となります。
- 助成金の場合:申請には「就業規則」や「賃金台帳」の整備が必須です。「ウチの残業代の計算、本当に合ってる?」「育休のルール、曖昧になってない?」…法律(ルール)を守るために、自社の「守り」を総点検することになります。これが、将来の「労務トラブル」を未然に防ぐ、最強の「防波堤」となるのです。
【デメリット編】「うまい話」の裏にある、5つの「落とし穴」
メリットだけを見て「ウチもやろう!」と飛びつくのは危険です。
ここからが、この記事で最も重要な「デメリット(注意点)」の解説です。
デメリット①:【最大の落とし穴】どちらも原則「後払い(精算払い)」である
これが、9割の経営者様が「こんなはずじゃなかった」と嘆く、最大のデメリットです。
「採択(合格)された!500万円もらえるぞ!すぐ振り込まれる!」
…とは、絶対になりません。
補助金・助成金があなたの口座に入るまでの、リアルな流れはこうです。
- 【申請】 「1,000万円の機械を導入したい」と申請。
- 【採択】 「OK!500万円補助します」と決定通知が来る。
- 【立て替え】 あなたが、取引先に「1,000万円」を自己資金(または融資)で全額支払う。
- 【実績報告】 「確かに1,000万円払って、機械を導入しました」と、領収書や写真など大量の証拠を提出。
- 【審査・確定】 国(事務局)が「間違いなく計画通りか」を厳しくチェック。
- 【入金】 すべてOKとなってから、数ヶ月後(時には1年後)に、ようやく「500万円」が振り込まれる。
500万円の補助金をもらうために、あなたは「一時的に1,000万円を全額立て替える体力(キャッシュ)」が必須なのです。
「手元に1円もないから欲しい」という状態では、これらの制度は活用できません。
デメリット②:申請(準備)に、膨大な「時間」と「手間(労力)」がかかる
「返済不要」の代償として、国(税金)も「本気」です。
申請書類は、決して「A4一枚のアンケート」ではありません。
- 補助金の場合:「公募要領(ルールブック)」と呼ばれる、分厚いPDF(数十〜百ページ)を完璧に読み込む必要があります。その上で、「事業計画書(なぜあなたの会社に税金を投入すべきか)」を、データを交えて論理的に作成しなければなりません。経営者であるあなたが、本業の合間に数十時間を費やす覚悟が必要です。
- 助成金の場合:計画書は(補助金より)シンプルですが、その代わり「証拠書類」が膨大です。「出勤簿(タイムカード)」「賃金台帳」「雇用契約書」「就業規則」…これらが「1分単位」「1円単位」で、法律に沿って完璧に整備されている必要があります。少しでも不備があれば、即「不支給」です。
デメリット③:【補助金のみ】「不採択(不合格)」になれば、努力がゼロになる
これは「コンテスト(補助金)」特有のデメリットです。
あなたが、寝る間を惜しんで完璧な事業計画書を書き上げ、数十時間を費やしたとしても、
「審査の結果、今回は不採択となりました」
という、非情な「不合格」通知が届くことは、普通にあります。
人気の補助金(例:事業再構築補助金)では、採択率が50%を切る(半分以上が落ちる)ことも珍しくありません。
費やした時間が「0円」になるリスク。これが補助金です。
デメリット④:受給したお金は「課税対象(利益)」になる
「返済不要」ですが、「非課税」ではありません。
補助金・助成金は、会計上「雑収入」として扱われます。つまり、その年の「利益」になります。
例えば、
「今年はトントン(利益0円)だったが、助成金で100万円入ってきた」
→ その年の「利益100万円」となり、
→ 翌年、この100万円に対して、きっちり「法人税」や「所得税」がかかります。
「100万円もらえた!」と喜んですべて使ってしまうと、翌年の税金が払えなくなる…という「資金繰りショート」を起こしかねません。
必ず税理士と相談し、納税分は確保しておく必要があります。
デメリット⑤:「対象となる経費」に、細かい縛り(ルール)がある
「補助金100万円採択されたから、何に使ってもいい」わけではありません。
- 「この補助金は、”広報費”はOKだけど、”PC本体の購入費”はNG」
- 「この助成金は、”外部研修の受講料”はOKだけど、”自社内でのOJT”はNG」
など、制度ごとに「何にお金を使っていいか」が、非常に細かく決められています。
このルールを破ると、たとえ採択された後でも「その経費は対象外です」と減額されたり、最悪の場合、受給資格が取り消されたりします。
まとめ:「メリット」が「デメリット」を上回るか?
ここまで、補助金・助成金のメリットとデメリットを解説しました。
もう一度、重要な点をまとめます。
4つの「メリット(魅力)」
- 返済義務・金利がゼロ(精神的に最強)
- 自己資金を温存して、大きな投資(攻め)ができる
- 国のお墨付き(信用力)が手に入る
- 自社を見直す(事業計画・労務)最高のキッカケになる
5つの「デメリット(落とし穴)」
- 絶対に「後払い」(立て替え資金が必須)
- 申請に「時間と手間」が想像以上にかかる
- 【補助金】「不採択(不合格)」で努力が0円になるリスクがある
- 受給したお金は「課税対象(利益)」になる
- 経費の「縛り」が細かい
結論:あなたの会社は、今「何をすべき」か?
では、これらのメリット・デメリットを踏まえ、あなたの会社はどう動くべきでしょうか?
ケースA:「攻め(設備投資・IT化・販路開拓)」をしたい経営者様
- 狙うべき: 補助金(持続化補助金、IT導入補助金など)
- 覚悟すべきデメリット: 「不採択(不合格)」のリスクと、「事業計画書」作成の手間。
- 今すぐやるべき第一歩:補助金申請は「GビズID(プライム)」という電子認証IDが必須です。このIDは、取得までに2〜3週間かかります。「使いたい補助金を見つけたのに、IDが間に合わず申請できない」という悲劇が多発しています。まずは「GビズID」を無料で取得申請しておくこと。これが、補助金を狙うあなたの「本当の第一歩」です。
ケースB:「守り(雇用安定・人材育成)」を固めたい経営者様
- 狙うべき: 助成金(キャリアアップ助成金、人材開発支援助成金など)
- 覚悟すべきデメリット: 「立て替え資金」の確保と、「法律に沿った労務管理」の徹底。
- 今すぐやるべき第一歩:助成金は「法律(ルール)を守っていること」が大前提です。「出勤簿(タイムカード)は1分単位で管理できているか?」「残業代の計算は、100%正確か?」「就業規則は、今の法律に合っているか?」まずは「自社の労務管理の総点検」をしてください。もし、少しでも不安があるなら、助成金申請のプロである「社会保険労務士(社労士)」に相談することから始めましょう。
「返済不要の資金」は、確かに存在します。
しかし、それは「何もしなくても降ってくるお金」ではありません。
デメリットを正しく理解し、戦略的に準備し、行動した経営者だけが手に入れられる「未来への投資資金」です。
あなたの会社も、間違いなく「対象」です。
まずは、あなたの「第一歩」を踏み出すことから始めてみませんか?

