~「無料」の罠と「高額」の理由。年商規模から逆算する、失敗しないネットショップの作り方~
「ネットショップを始めたいと思い、制作会社に見積もりを取ったら300万円と言われた」
「でも、テレビCMでは『無料でネットショップが開ける』と言っている。この差は何なんだ?」
「結局、うちはどのサービスを使えば一番損をしないのか?」
ECサイト(ネットショップ)の立ち上げを検討されている経営者の皆様。
情報が多すぎて、何が適正価格なのか分からなくなっていませんか?
無理もありません。
ECサイト制作の世界は、「初期費用0円」でできるものから、「数千万円」かかるものまで、選択肢の幅が異常に広いからです。
しかし、これだけは断言できます。
「とりあえず安いから」という理由だけでプラットフォーム(システム)を選ぶと、後で地獄を見ます。
- 「売れれば売れるほど、手数料が高くて利益が残らない」
- 「やりたいキャンペーンがあるのに、機能制限でできない」
- 「システム移行をしようとしたら、顧客データが引き継げずにゼロからやり直しになった」
これらは、私が実際に相談を受けた「失敗事例」のほんの一部です。
ECサイト構築において重要なのは、今の安さだけではありません。「将来の売上規模(年商)」に見合ったシステムを選べているか、という視点です。
この記事では、数多くのECサイト構築・運営支援を行ってきたプロの視点から、「プラットフォーム別のリアルな費用相場」と「隠れたランニングコスト」について徹底解説します。
これを読めば、御社のビジネスフェーズに最適な「出店場所」と「予算感」が明確になり、無駄な投資を防ぐことができるはずです。
1. まず理解すべき、ECサイトの「4つの出店場所」
費用相場を知る前に、ECサイトには大きく分けて4つの作り方があることを理解しましょう。
これをリアルな店舗に例えると、費用の違いが一発で分かります。
- ASPカート(BASE、STORESなど)
- 例え: 道の駅の屋台、キッチンカー
- 特徴: とにかく手軽。初期費用は安いが、機能は限定的。
- SaaS・クラウド型(Shopify、makeshopなど)
- 例え: ショッピングモールのテナント
- 特徴: 最新設備が整っている。月額家賃はかかるが、カスタマイズ性が高く、今一番の主流。
- パッケージ・オープンソース(EC-CUBEなど)
- 例え: 注文住宅
- 特徴: 土地(サーバー)から自分で用意する。自由度は高いが、メンテナンス(修繕)が大変。
- フルスクラッチ
- 例え: 百貨店の建設
- 特徴: 完全オーダーメイド。莫大な費用がかかる大企業向け。
中小企業・個人事業主様が検討すべきは、主に「1. ASPカート」か「2. SaaS・クラウド型」のどちらかです。次章から詳しく比較していきます。
2. 【タイプ別】制作費用の相場と特徴を徹底比較
では、それぞれのタイプについて、制作会社に依頼した場合の「初期費用」と、毎月かかる「月額費用」の相場を見ていきましょう。
タイプ①:ASPカート(BASE、STORESなど)
「まずは小さく始めたい」「月商数十万円を目指す」という方向けです。
- 初期制作費(プロ依頼):10万円 ~ 50万円
- テンプレートを選んで画像を入れる作業がメインです。
- 月額固定費: 0円 ~ 数千円
- 決済手数料: 高い(売上の 3.6% ~ 6% +数十円)
プロの視点:
初期費用は安いですが、売上に対する手数料が高めに設定されています。「売れていないうちは安いが、売れるようになると割高になる」仕組みです。月商100万円を超えると、手数料負担が重くのしかかってきます。
タイプ②:SaaS・クラウド型(Shopify、makeshop、futureshopなど)
「本格的に売上を作りたい」「月商100万~数千万円を目指す」という方向け。現在、最も多くの企業に選ばれている方式です。特に世界シェアNo.1の「Shopify(ショッピファイ)」が人気です。
- 初期制作費(プロ依頼):50万円 ~ 300万円
- デザインのカスタマイズ、アプリ(機能)の設定、物流システムとの連携などが入ります。
- 月額固定費: 数千円 ~ 数万円
- 決済手数料: 安い(売上の 3.0% ~ 3.5%程度)
プロの視点:
月額費用はかかりますが、決済手数料が安いため、売上が上がれば上がるほど利益率が良くなります。拡張性も高く、将来的に長く使える「本命」のプラットフォームです。
タイプ③:パッケージ・オープンソース(EC-CUBEなど)
「独自の販売ルールがある」「社内システムと複雑に連携させたい」という特殊な事情がある企業向けです。
- 初期制作費(プロ依頼):300万円 ~ 1,000万円以上
- サーバー構築から行うため、高額になります。
- 月額固定費: 数万円 ~(サーバー代・保守費)
- 決済手数料: 契約する決済代行会社による。
プロの視点:
自由度は最強ですが、システムのアップデートやセキュリティ対策を自社(または制作会社)で管理し続ける必要があります。「セキュリティ事故」のリスクも高まるため、専門担当者がいない場合はおすすめしません。
3. 見落とし厳禁!見積書には載らない「隠れたコスト」
ECサイト運営で経営者が一番驚くのが、公開後にかかるランニングコストです。
「月額費用」以外にも、以下のお金がかかることを計算に入れておく必要があります。
① 決済手数料(これが一番重い!)
お客様がクレジットカードなどで支払うたびに引かれる手数料です。
- 例:月商300万円の場合
- 手数料3.4%なら:約10万円
- 手数料6.6%なら:約20万円
- → 毎月10万円の差が出ます。年間120万円の差です。
初期費用の安さだけで手数料の高いプラットフォーム(BASEなど)を選んでしまうと、売上が伸びた時にこの「差額」で利益が削られます。これが「無料の罠」です。
② 機能追加アプリの月額料金
特にShopifyなどで多いですが、「定期購入機能を入れたい」「ポイント機能をつけたい」といった場合、有料のアプリ(プラグイン)を入れる必要があります。
一つ一つは月額10ドル~50ドル程度ですが、あれもこれもと入れると、月額固定費が数万円に膨れ上がることがあります。
③ 商品撮影・ささげ業務
ECサイトの命は「写真」です。
制作費とは別に、プロカメラマンによる商品撮影費(1カット数千円~)や、採寸・原稿作成(ささげ業務)のコストが発生します。ここをケチると、どんなに高いシステムを使っても商品は売れません。
4. 失敗しない選び方。御社の「年商目標」はいくら?
結局、どれを選べばいいのでしょうか?
判断基準は「機能」ではなく、「目指す年商規模」で決めるのが正解です。
【年商 1,000万円以下】を目指すなら
迷わず「BASE」や「STORES」から始めてください。
あるいは、制作会社に頼まず、自社でインスタグラム販売から始めるのも手です。まずはリスクを抑えて「売ってみる」経験を積むフェーズです。
【年商 1,000万円 ~ 1億円】を目指すなら
「Shopify(ショッピファイ)」などのSaaS型をおすすめします。
初期投資として100万~200万円かけて制作会社に依頼し、しっかりとしたブランドの世界観と、買いやすい導線を作り込みます。
この規模になると、決済手数料の安さが効いてきますし、CRM(顧客管理)やメルマガなどのマーケティング機能が必要不可欠になるからです。
【年商 1億円以上】または【特殊な売り方】なら
SaaS型の上位プランか、「EC-CUBE」などのパッケージ開発を検討します。
独自のポイント経済圏を作りたい、基幹システムとリアルタイムで在庫連動させたい、といった高度な要件が出てくるため、開発費に500万円以上かける価値が出てきます。
5. 制作会社に依頼する時の「適正価格」の見極め方
プラットフォームが決まったら、次は制作会社選びです。
同じShopify構築でも「50万円」と「300万円」の見積もりが出てくることがあります。この差は何でしょうか?
50万円の正体:「設定代行 + テーマ適用」
- 既存のデザインテンプレートをそのまま使う。
- 商品登録は自社で行う。
- 最低限の初期設定だけを代行してくれる。
- → とりあえずお店を開きたい人向け。
300万円の正体:「ブランディング + マーケティング実装」
- 競合調査を行い、売れるためのコンセプトを設計する。
- ブランドイメージに合わせたオリジナルデザインの実装。
- 「カゴ落ち対策」「LINE連携」など、売上を上げるための機能設定。
- 運用ルールの策定までサポート。
- → 本気で事業としてECを成功させたい人向け。
見積もりを見る際は、単に「制作作業」だけでなく、「売るためのコンサルティング要素」が含まれているかを確認してください。ECサイトは作って終わりではなく、売ることがゴールだからです。
6. まとめ:ECサイトは「建物」より「集客」にお金を残せ
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
ECサイト制作の費用相場について、霧が晴れてきましたでしょうか?
最後に、最も重要なアドバイスをお伝えします。
「予算の全額を、制作費に使ってはいけません」
実店舗なら、いい場所にお店を出せば(高い家賃を払えば)、看板を見てお客様が入ってきてくれます。
しかし、Web上の店舗(ECサイト)は、作っただけでは誰も気づいてくれません。無人島にお店を出すようなものです。
お客様を連れてくるためには、「Web広告費」や「SNS運用費」などの「集客予算」が絶対に必要です。
もし予算が300万円あるなら、
「制作費に300万円」かけるのではなく、
「制作費に150万円、残りの150万円は最初の半年の広告費」
という配分にしてください。
どんなに立派なECサイトも、アクセスがなければ売上はゼロです。
逆に、多少デザインがシンプルでも、多くのお客様が訪れれば商品は売れます。
「初期費用(制作費)」と「ランニングコスト(手数料)」、そして「集客コスト(広告費)」。
この3つのバランスを最適化することこそが、EC事業を黒字化させる唯一の道です。
御社の商品が、最適なプラットフォームを通じて、全国の必要としているお客様に届くことを、心より応援しております。
【編集後記】
余談ですが、最近は「BASEで小さく始めて、売上が伸びてきたらShopifyへ引っ越す」という企業様も増えています。
ただ、この「引っ越し」は顧客データの移行などが結構大変です(パスワードの再設定が必要など、お客様に負担をかけます)。
本気でやるなら、最初から拡張性のあるShopifyなどのSaaS型を選んでおくのが、結果的には一番の近道だと私は感じています。
「安物買いの銭失い」にならないよう、未来を見据えた選択をしてくださいね。

